冒険倶楽部活動ファイル
ファイル13 さよなら冒険倶楽部
「えっ?」
3月に少し経った日の事だった。
家に帰ってくると今日はお父さんが珍しく早く帰って来ていた。
普段夜遅くにしか帰ってこないお父さんが日の高い内に帰ってくる、この事が意味する事を私は分かっていた。
でもお父さんと暮らしている限りは聞かない訳にもいかなかった。
私は転校する、しかも卒業式…… つまり3月7日だった。
翌日、私はこの事を皆に話した。
クラスの子達はすごく驚いた。特に秀君達は……
「転校ってホントなの?」
「今日入れて3日しかないじゃん!」
羽須美ちゃんも功治君も驚いた。
でもそれはいつもの事だった。
明日から土日で休み、つまり月曜日にはこの島を離れなければならない、
私の意志とは関係ない、お父さんの仕事が決まると私は着いて行くしかなかった。
「秀〜、何とかならないの〜? お金持ちでしょ〜?」
「そうよ、ほのかちゃんとの同棲なんだから悪い事じゃないでしょ!」
「この場合同居だと思うんだけど……」
「どっちでも良いのよそんな事!」
「落ち着けって」
龍太郎君が宥めた。
でも転校自体どうにもならない、
未成年の内は親に付いていかなければならない、確か法律で決まってる、
「私…… みんなと卒業したかった」
私が言うとみんな何も言えなくなった。
午前で授業が終了し、家に帰った私は転校の仕度をした。
久しぶりだったけど引越しの作業は慣れっこだった。
押入れの中の荷物をダンボールに詰めると今度は本棚となった。
大きい本から順番に入れてゆき隙間の無いように入れてゆく、でも衣服より本の方にダンボールを使うなんて羽須美ちゃんに言ったら怒られるだろうな、
『女の子なんだからお洒落しなさい! そんなだから秀とのフラグが立たないのよ!』
何がフラグよ何が……
本棚を整理していると私はある一冊の本を手に取った。
それは私が冒険倶楽部に入ってからのアルバムだった。
私は手にとって広げてみる、
4月に初めて冒険した展望台で取った写真からこの前のバレンタインデーの写真までたくさん張ってある、秀君が写してくれたカメラをパソコンでプリントしてくれた物だった。
「……みんな」
秀君、羽須美ちゃん、舞加奈ちゃん、功治君、龍太郎君、鯨那君、他にもクラスメートの子達やこの島に来て知り合った人達もみんな優しかった。
正直言って今まで通っていた学校で1番楽しかった。久々に心の底から楽しいと思った。
それと同時に別れなければいけない時の寂しさと悲しさも思い出してしまった。
やっぱり人と馴れ合うってすごく問題があった。そんな事分ってたはずなのに……
翌日の土曜日はお父さんと一緒に丸1日かけて借家の掃除をした。
次に誰が借りるのか分らないけど、今までお世話になったので徹底的に奇麗にしておく必要があった。
さらにその翌日の早朝、
よく晴れた桜並木を通りながら秀君のお家へ向った。
「何だろう?」
私は携帯電話を取り出した。
昨日の夜、秀君からメールが届いた。
『ほのかへ、明日の9時、冒険ポーチを持って部室に来て下さい』
今日は何も無い、引越しの手続きもお父さんが済ませたので今日一日何もする事がなかった。
「どんな事するんだろう?」
でもどんな事をしても私は明日転校する、
いつもはワクワクするのに今日の私の心は沈みっぱなしだった。
作品名:冒険倶楽部活動ファイル 作家名:kazuyuki