冒険倶楽部活動ファイル
翌日、十波君のお屋敷に集合し、みんなで展望台を目指した。みんなリュックサックに色は違うがそれぞれ同じウェストポーチをつけている。真中に☆の刺繍が描かれてそこから飛び出たように『AC』と描かれている。これは『ADVENTURE・CLUB』の略称だと言う。
「いやぁ、晴れて良かったね〜」
舞加奈ちゃんは雲1つない空に向かって両手を伸ばした。
「ほのかちゃんは展望台言った事ある?」
隣りを歩いていた羽須美ちゃんが私に尋ねてくる、勿論私は首を横に振った。前にも言った通り私はこの町の事を詳しくない、確かに今日は暇だし。あれから色々考えたけど正直彼等が言う冒険がどんな物か見てみたくなったのも事実、断るんならそれからでも遅くない……
歩く事20分、途中駄菓子屋さんでジュースとお菓子を買うと私達は展望台の入り口にたどり着いた。森の中を切り開いて作られた階段を上がればそこはこの島を見渡せる展望台だと言う。
「さてと。これからどうしようか?」
と、功治君が言ってくる。
「えっ。ここ上るんじゃないの?」
「いや。そうなんだけどね。このまま行ったんじゃつまんないじゃない〜?」
「ちょっとゲームしながら行くと盛り上がるんだよ」
「でもどんなのやるの?」
「そうだな……」
十波君は腕を組んで目を閉じて考えた。待つ事数十秒。十波君は目を開いた。今回十波君が考えたゲームとは……
「じゃーんけーん・ポンッ!」
勝ったのは龍太郎君だった。
「パ・イ・ナ・ツ・プ・ルッ!」
階段を1段づつ登って行く。そしてまたジャンケン。今度はグーで功治君の勝ちだった。
「みんな早く早く!」
龍太郎君の隣りに並んで功治君は大きく手を振った。
「絶対負けない〜っ!」
「何としても勝つんだから!」
舞加奈ちゃんと羽須美ちゃんは歯を軋ませていた。実はこのゲームで負けた子は最初に勝った子の言う事を聞かなければならなかった。でもはるか後ろ。と言うかまだ一番下、そこには十波君がいた。十波君はこの勝負に参加せずに腕を組んで待っていた。実は十波君はハンデを持っていて皆が十回ジャンケンを終えるまで待ってると言うのだ。
「さてと、ソロソロ行くか」
十波君は軽く右腕を回した。結構差が開いている、今からじゃ一番にはなれなかった。
「それじゃいくよ、じゃーんけーん……」
「「「「「「ポンッ!」」」」」」
一斉に手を出す。すると十波君の1人勝ちだった。
「チ・ヨ・コ・レ・イ・トッ!」
「じゃーんけーん……」
あっと言う間だった。十波君が一番先にゴールしてしまった。信じられない事に十波君はジャンケンが物凄く強かった。功治君や羽須美ちゃんの話だと十波君が負けてるところを見た事が無いと言う、その後続いて龍太郎君、舞加奈ちゃん、功治君とクリア、後は私と羽須美ちゃんだけとなった。お互いグー・チョキ・パー。どれを出しても1回勝てば頂上だった。
「はぁ…… はぁ……」
正直私は熱くなってた。こんな感じになったのは久しぶりだった。ただのジャンケンなのに、ただ普通に遊んでいるだけなのに物凄く楽しかった。
「じゃーん……」
「けーん……」
「「ポンッ!」」
そして最後の勝負、勝ったのは……
「やったぁ!」
勝ったのは羽須美ちゃん。私はビリとなってしまった。羽須美ちゃんはスキップで階段をかけ上がる、私もゆっくりと上がって頂上に到着する。休憩用の木造のテントにベンチ、ゴミを捨てる為の屑篭が置いてあるだけの何もない展望台だった。
「お疲れ様」
十波君が笑顔で迎えてくれた。確かに疲れただけだった。でも……
「うん」
私はどんな顔をしていたのか分からない、でも十波君や他の子達も笑っていた。
「あ。そうだこっち!」
すると十波君は私をエスコートしてくれた。そこはこの町を見渡せる絶好のスポットだった。
「うわぁ……」
私は目を見開いた。町中に鮮やかなピンクの桜が咲き乱れて風に乗って花弁が舞っている、凄く奇麗だった。遠くの海も太陽の光でキラキラ輝いてる。
「冬なら雪が積もってこれは別に奇麗なんだよ」
功治君が私の隣りで言ってくる。
「さてと河合さん。ルールは覚えてる?」
「えっ?」
「じゃあ罰ゲーム言うよ。」
すっかり忘れてた。ゲームで負けた人は罰ゲームが待ってたんだった。
「ち、ちょっと待って、まだ心の準備が……」
しかし私の言葉を他所に十波君の口から出た言葉は……
「僕達と友達になってください、」
刹那の沈黙、私は頭の中が真っ白になった。
「ダメかな?」
「えっ? あ。ええと……」
私は正気に戻って困ってしまった。みんなも真剣な目で見てくる。すると何だか申し訳ない気持ちになってきた。
「……あのね。私。正直言って冒険ってくだらないと思ってた。子供の遊びだって思ってた……」
今までの転校続きの生活の事を皆に話した。仲の良い友達を作っても1つの町に留まっていられない、友達を作っては別れ作っては別れを繰り返してきた事を……
「ごめんなさい。でも皆が大事にしてる冒険を馬鹿にした私が仲良く出来るはずが無いの…… 友達なんか作る資格なんかないの……」
私はいつの間にか泣いていた。涙が止まらなかった。すると十波君が私の肩に手を置いてきた。
「別にいいんじゃないかな?」
それだけだった。すると他の皆も続いてくる。
「そんなのよく言われてるよ、でも言いたい奴にはわせて置けばいいよ」
「まぁ。ほのかちゃんは理由があるんだし〜 全然ОKだよ〜」
「それってあっちこっちの子と友達になってるって事でしょう?」
「そっちの方が凄いじゃん!」
龍太郎君も舞加奈ちゃんも羽須美ちゃんも功治君もみんな私を認めてくれた。
「……まぁ。人それぞれだよ。それでどうするの?」
眼鏡越しにとても澄んだ目で私を見つめてくる。
「うん」
私が頷くと十波君は自分のリュックサックの中から1つのウェストポーチを取り出した。それは白いウェストポーチだった。
「はい、河合さん」
この時昨日十波君が言って来た意味がようやく分かった。でも私が断った場合はどうしたんだろう?
「その時はその時だったよ」
「ええ? ……ふふっ」
私は思わず吹き出してしまった。
他の子達も笑うと私は喜んでウェストポーチを受け取った。数日後。冒険倶楽部の部室のボードとアルバムに新しい写真が張られた。新しい団員、河合ほのかが入部した瞬間の写真だった。
作品名:冒険倶楽部活動ファイル 作家名:kazuyuki