冒険倶楽部活動ファイル
私と羽須美ちゃんは下に降りて浴衣を着付けしてもらい髪も結ってもらった。
「はい、終わり!」
試着室の鏡を見ると別人が写っていた。
「……これが、私?」
思わず右手を上げて見ると鏡の中の人物も右手を挙げる。
「うん、似合う似合う、やっぱ私の目に狂いは無かったわ!」
隣りでは羽須美ちゃんが親指を立てる。
私達は再び羽須美ちゃんのお部屋で話をしていた。
テーブルの上に羽須美ちゃんのお母さんが持って来た紅茶を飲んでいた。
ちなみに私にはチョコレートケーキを出してくれた。
どうやら『お姉さん』って呼ばれた事がよっぽど嬉しかったらしい、
「……本当にありがとう、浴衣貸してもらっちゃって」
「別にいいよ、ほのかちゃんが着なきゃずっとクローゼットの中で眠ってただけだから」
「でも羽須美ちゃんの見立てって凄いね、舞加奈ちゃんもあの浴衣似合うよ」
「こう見えてもデザイナー志望だからね、コーディネイトの勉強もしてるんだよ」
すると羽須美ちゃんは立ち上がって机の引き出しを開けると中からスケッチブックを取り出した。
「これ、私が描いたんだよ」
スケッチブックには洋服や着物の絵がたくさん描かれていた。
全部羽須美ちゃんが描いた物だと言う、
「……絵の方はあんまり上手じゃ無いけどね」
「そんな事ないよ、凄い上手よ」
「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいよ」
羽須美ちゃんは苦笑しながら頬を人差し指で掻いた。
「ところで、羽須美ちゃんってどうしてデザイナーになろうとしたの?」
「どうしてって…… まぁ、これと言って特別な理由は無いんだけどね……」
羽須美ちゃんは語った。
ずっと小さい頃からご両親のお仕事を見てきた羽須美ちゃんは自分のお店で服を選んで買ってくれたお客さんが笑顔になってくれるのを見るのが好きだったと言う、
そしていつしか自分も店中の服を組み合わせてどうやったら素敵に見えるか、どんな服がどんな人に似合うかを考えたと言う、
そして十波君や功治君を連れ込んで着せ替え人形代わりに着せていたらしい、
「そうしたらお母さんも面白がって女の子の服着せたりしちゃったのよ、確か……」
すると今度は本棚から一冊の本を取り出した。
それはアルバムで羽須美ちゃんが生まれてから11年間の写真が納められていた。
そしてその中から小さな頃の羽須美ちゃんが別の女の子達と並んでいる写真があった。
「こ、これ十波君と功治君?」
女の私でも思わず疑いたくなるほど可愛過ぎた。
2人供どこかの国のお姫様みたいだった。
「服装って凄いでしょう、着る人の見た目はおろか性格まで変えちゃうのよ」
「えっ? まさか……」
私は想像する。
十波君と功治君は普段は男の子の服を着てても一度家に帰れば着ている服を脱ぎ捨てて女の子用の服を着てプライベートな時間を過ごす…… お世辞にもいい趣味とは言えない。
「あ、勘違いしないで、秀達は普通だから、あの2人その事振られると怒るのよ……」
「えっ? ああ、そう……」
良かったような残念なような……
「でもまぁ、私もいつか自分の服でも作ってみようと思ってるのよ」
「素敵な夢ね、羽須美ちゃんならきっとできるよ」
「ありがとう、でもお母さんに比べればまだまだよ…… それよりほのかちゃんはどうなの?」
「えっ?」
「作家さんになるって夢、どこまで行ったの?」
「ど、どこまでって……」
あれから一月とちょっとしか経ってないのにそんなに早く書ける訳は無い、コンビニで買ったA4ノートに書き込んではいるけど実際書いて見ると難しい、
「まぁ、ボチボチかな……」
私は苦笑する、
「そう、でもほのかちゃん変わったよね」
「えっ?」
変わった? 私が?
「転校した手の頃のほのかちゃんって結構無愛想だったよ」
「そ、そう?」
「うん、でも今じゃ毎日楽しそうよ。もしかして秀に関係してる?」
「ええっ?」
私は思わず両肩をビクつかせると羽須美ちゃんは目を細めて口の端を上にあげた。
「それくらい分かるよ、ほのかちゃん良く秀の方見てるから」
十波君は視力が弱いから1番前の真中の席だけど私は十波君の右斜め後ろの席、
だから1番後ろの席の羽須美ちゃんはクラスの様子を全部見渡せると言う。
「ほのかちゃん、もしかして秀の事好きなの?」
「ええええっ?」
私は思わず大声を出してしまい慌てて口を塞ぐ、
下のお店に聞えなかったかなぁ?
「ふへぇ?」
するとベットで寝てた舞加奈ちゃんが起きてしまった。
訳が分からなさそうに周囲を見回すと再び枕に頭を沈めて眠ってしまった。
多分ここが羽須美ちゃんの家だって事も気付いても無いだろうなぁ〜、
「あはは、しょうがないね舞加奈ちゃんは」
「あ、あの…… 羽須美ちゃん……」
「ん、さっきの話? 別にいいんじゃない、でも前にも話したけど秀の競争率激しいよ?」
「べ、別にそんなんじゃ……」
「ん〜…… まぁ、秀ってこう言ったの凄く鈍いから、簡単に告白したら簡単に落ちちゃうかもよ?」
「お、落ちるって……」
十波君って恋愛に疎いなんて初めて知った。
まぁ男の子なんだし当然かなぁ?
それよりも羽須美ちゃんってこう言う話鋭いんだ……
「さてと、そろそろ行こうか……」
羽須美ちゃんは机の上に置いてある目覚まし時計を見る、
すると時間は5時を回ろうとしていた。
「ほら舞加奈ちゃん、起きなさい!」
「う〜〜…… あれ、羽須美ちゃん? ここどこ〜?」
「私の家、ほら、早く下行って顔洗って着替えましょう」
「着替え〜?」
そうして羽須美ちゃんは部屋の扉を開けた。
「あ、ほのかちゃん。さっきの事は秘密にしておいてあげるからね」
「だ、だから羽須美ちゃん、私は……」
しかし羽須美ちゃんは右目でウィンクすると舞加奈ちゃんの肩を支えながら階段を降りて行った。
作品名:冒険倶楽部活動ファイル 作家名:kazuyuki