ぼくは脱退します
隣に座るKanonに向かって、D.Cは首をくいくいと横に動かしてぼくを指した。
「……朱ねこが自分から脱退したいって言い出したんだ。D.Cはまだしも、プロでもない俺ら三人には止める権利はない。それよりも、俺らは俺らで今後の活動を考えた方がいい。それに納得出来ないのなら、Type-circusは解散するべきだ」
ずっと居酒屋のお品書きを眺めながら黙っていた喜三也は、その場の四人にそうはっきり告げ、再び俯いて日本酒の種類を眺めた。
「おい! お前……ロクに話に入ってこないで、そりゃあねぇだろ! だいたいお前はいつもいつも――」
「待て、落ち着け落ち着け。……朱ねこには悪いが、俺はKanonの言うことには賛同出来る。朱ねこは理由を意地でも話さないようだし、そんな朱ねこに頼り切っている俺たちも俺達だ。要は元から俺らは五人が五人、誰かにすがりながらここまでやってきた、とも言える。だったらそんな温いバンドは解散して、今一度、自らの力で互いに新しいバンドを作り上げていった方がいいかもしれない、と俺は思う」
いきり立つpain+を制して、D.Cは目を閉じて腕を組みながら言った。
確かにD.Cの言うことも痛いほど分かる。だけど、ぼくはそれよりも喜三也の鋭い言葉に、またも傷付きそうになった。目頭が熱くなり、白熱灯の光がぼやけて映る。
結局話し合いはまとまらないまま(ぼくがはっきり理由を言わない所為だが)今日はとりあえず解散となり、ぼくも含めてメンバー一人一人家に帰ってよーく考え、明日にもう一度集まってどうするかを決めることになった。
結局D.Cが話を取り仕切ってくれたおかげで、変なもめ事にならなくて済んだのだが、喜三也はあの後は全く発言しなかった。むしろ、会話にも入ろうとしてこなかった。