朧木君の非日常生活(8)
「どうしたんだい? 蜘戒さん。黙りこくっちゃてさ。さぁ、会話をしようじゃないか」
蜻蛉さんが、口を開いた。
それと同時に蜘戒さんの肩がビクッと動く。
やはり蜻蛉さんは全てを理解している。
なにも黙りこくっているのは蜘戒さんだけではない。
俺と鬼火ちゃんも黙っていた。
しかし、ここで敢えて蜘戒さん一人の名前を出した。
煽っているのだ、この人は。
蜘戒さんの感情を揺さぶっているのだ。
「・・・・・・いえ、すみません・・・・・・何と言えばいいか・・・・・・分からなくて・・・・・・」
蜘戒さんは、しどろもどろに答えた。
「何に対して謝っているんだい? 誰に対して謝っているんだい? 取り戻せよ、自分を」
蜻蛉さんは一歩また一歩とゆっくりだけど、確実に蜘戒さんに近づいていった。
対する蜘戒さんは、蜻蛉さんの動きに同調するかのように、一歩また一歩と後退りを始めた。
しかし、すぐに電柱にぶつかり、後退りすることも叶わなくなる。
今日の蜻蛉さんは手強い。
最初からそうなるように誘導していたのだろう。
何よりこの人の頭の回転の早さといったら異常だ。
勉強ができるとかそういう問題ではない。
脳をどう使うか、だ。
蜻蛉さんはうまい。
とにかくうまい。
頭の回転の早さ、うまさがとにかく凄い。
計算なんてしてないんだろう。
どうせ聞いても「ただの勘さ」の一言で済ませてしまうんだろう。
そういう人なんだから。
作品名:朧木君の非日常生活(8) 作家名:たし