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ラベンダー
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走れキャトル!(3)~魔術師 浅野俊介 第0章~

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「秋本さん、大丈夫ですか!?」

圭一がエレベーターの中で言った。

「大げさだよ。ちょっと熱があるだけじゃないか。」
「ちょっとじゃないですよ!それ!…よく我慢してましたね!」
「そうか?」

と言いながらも、秋本は一人では立っていられなかった。
エレベーターが1階についた。

圭一は医務室へ秋本を連れて行った。
医務室のドアを開けると、明良が待っていた。

「秋本君、大丈夫か?…とにかくここへ寝て…」
「すいません…」

明良がベッドに寝た秋本の額に手を乗せた。

「かなり熱いな…。とにかく医者を呼んであるから…。」
「すいません…お医者さんなんて別に…」
「何を言ってるんだ。早めに治さないと仕事に影響するよ。」
「はい…」

…しばらくして、プロダクションと提携している病院の医者が看護師を連れてきた。圭一と明良は部屋を出た。

「珍しいな…秋本君が熱を出すなんて…」
「たぶん、作曲のことであんまり寝ていないと思うんです…」
「そうか…真美君のための曲だもんな。…とても楽しみだよ。」

明良が微笑んで言った。…だが、圭一は表情が暗い。

「?どうした?圭一…」
「!ううん。僕も…楽しみ…。」
「さ、後はお医者さんに任せて、お前はまた稽古に戻るんだ。お前も明日収録があるだろう。」
「はい。」

その時、キャトルが廊下をかけて来て、圭一の足元でお座りをした。

「キャトル!一緒に上に行く?」

圭一が両手を差し出した。キャトルは抱っこを求める赤ちゃんのように両前足を上げた。圭一はキャトルの体をそっと持ち上げた。

「圭一の歌、気に行ったみたいだな。」
「ええ。時々寝てしまいますけど。」

圭一がキャトルを撫でながら、笑って言った。

「お前の声が、心地いいんだろう。」

明良も微笑んで、キャトルを撫でた。

……

「優が熱!?」

5階の廊下で、沢原が驚いた表情で圭一に振り返った。
自室に帰ろうとしていたところを、キャトルを抱いた圭一が呼びかけたのである。

「はい。今夜はプロダクションに泊めて、僕が看病しようと思うんです。」
「そうだな…。しかし優が熱ねぇ…。」
「…真美ちゃんに連絡しようかどうしようか悩んでいるんですけど…」
「今日は休みじゃなかったか?…」
「ええ…だから、わざわざ呼ぶのもなぁって…」
「そうだよな…」

圭一と沢原はそのまま黙り込んだ。

その時、圭一の手からキャトルが飛び降りた。

「キャトル!?」
「…また何か起こるのか?」

圭一と沢原はキャトルを追って走った。
キャトルは階段を駆け降りた。

「おいおい!もしかして1階まで走る気か!?」

沢原が言った。

その通り、キャトルは1階まで駆け降りた。
すると、真美が廊下を歩いて来ていた。

キャトルがその真美の足元で、横すべりしながらも一旦止まった。

「あら、キャトル。」

真美がかがんで、頭を撫でようとすると、またキャトルは走り出した。

「!!…真美ちゃん、キャトル掴まえて!!」

圭一が息を切らしながら、咄嗟に言った。

「えっ!?はい!」

真美がキャトルを追いかけて走り出した。

沢原がその真美の後ろ姿を息を切らしながら見送り「…なるほどね。」と呟いた。
圭一が微笑んだ。

……

キャトルは、たまたま医者が出てきたドアから医務室へ飛び込んだ。

「おっと!…ああ、キャトルちゃんか。」
「すいません!」

医者に真美が謝った。

「いえいえ。」

医者が笑いながら、看護師を連れて去って行った。
実際の病院だと、こうはいかないだろうが…。

真美は医務室に入った。

「キャトル!おいで!」

そう言って部屋を見渡すと、ベッドに秋本が寝ているのに気づいた。

「!!常務!?」
「!?…真美?…」

秋本も驚いていた。

「常務、どうしたんですか!?」
「ああ…熱が出ちゃってね…」
「!!」

秋本が苦笑した。

「すぐ下がるよ。ちょっと寝不足だったんだ。」
「…寝不足?」

真美はベッドの傍に立った。

「それより真美、今日は休みじゃなかったのか?」

秋本は熱のために座った目で真美を見た。

「…楽譜…忘れて…」
「そうか…」

秋本が微笑んだ。
が、すぐに秋本は頭に手を当て、顔をしかめた。

「常務!」
「大丈夫大丈夫。何年振りだろうな…熱なんて出したの…。送ってやれないけど…気をつけて帰れよ。」
「…私…看病します。」
「いいよ。圭一君が看てくれることになってるから。早く帰らないと、家の人が心配するだろう。」

真美は涙ぐみながらうなずいた。

……

真美がキャトルを抱いて医務室から出ると、圭一と沢原が心配そうな表情で立っていた。

「真美ちゃん、俺が家まで送るよ。」

沢原が言った。

「秋本さんは僕が看てるから…安心して帰って下さい。」

真美は泣き出した。

「真美ちゃん!」

圭一と沢原が驚いて真美の傍に寄った。

「…母さんの部屋に…僕は秋本さんの傍にいますから…」

圭一が言った。沢原がうなずいた。

……

専務室-

真美はキャトルを抱きながら泣いている。真美の隣で、菜々子が心配そうに真美を見ていた。向かいには沢原が座っている。

「あいつさ…不器用なんだよな。…だまってろって言われてたんだけど…実は優は今、曲を作ってるんだ。」
「!?」
「真美ちゃんに歌ってもらう曲だよ。俺も手伝ってはいるけど、ほとんど優が作ってる。…最近は、そのために会えなかったんだ。」

真美はまた泣き出した。菜々子が真美の背を撫でた。沢原は続けた。

「本人には知らない振りをしておいてくれ。真美ちゃんに言ったのばれたら、俺殺されるから。」

沢原はそう言って笑った。真美は泣きながらうなずいた。

「あのね、真美ちゃん…男でも女でも愛の表現って人によって違うと思うんだ。俺は自分の思い通りにするタイプだけど優はまず相手の自由を考える。それに、あいつ不器用な上に照れ屋だからさ…。わかってやって。」

真美はうなずいた。

「自分にはもったいないって言ってたよ。真美ちゃんには物足りないかもしれないけど…毎日会えなくても、いつも優が君の事を想ってるって覚えておいて。」

真美がまた涙をこぼしてうなずいた。菜々子が微笑んで真美を見ている。
キャトルがあくびをした。

「…あらやだ。キャトル疲れたのかしら?」

菜々子が言った。

「5階から1階まで全速力で走ったからなぁ…」

沢原がそう言って笑った。

「ありがとう。キャトル。」

真美が涙を拭いながらそう言うと、キャトルは「にゃあ」と鳴いた。
菜々子達が驚いた。

「返事したわ!」
「本当に不思議な子だなぁ…」

沢原が言った。

……

翌日-

秋本の熱は下がっていた。
真美は圭一からそのことを聞き、秋本の部屋に行った。

「…おはよう。…昨夜は心配かけてごめんね。」

秋本がそう言って、向かいのソファーを手で指した。
真美は頭を下げて、ソファーに座った。何かお互いギクシャクしている。

「…私こそ…何もできなくて…」

真美の言葉に、秋本は微笑んで首を振った。
真美が尋ねた。

「もう大丈夫ですか?」