妄想
Scene7
ノックもせずドアを開けると部屋の主はなにやら口に頬張りながら雑誌を眺めていた。
「ういーす」
「あ、来た」
私の適当な挨拶に興味もなさそうに応える彼女の前のテーブルの上にはお菓子の袋がある。
「何食べてんの?」
「ハッピーターン」
「また懐かしいもの食べてんねー」
そう言いながら本棚から適当に漫画を手に取り、彼女の隣に並んで座った。
そして、なんとはなしにテーブルの上のハッピーターンに手を伸ばす。
横から伸びた別の手がそれを阻むように袋の開け口を横に向けた。
「何勝手に食べようとしてんのさ」
「あ、すんません。ちょっとちょうだい」
「やだ」
「うわ、けちくさ」
「粉が漫画に落ちるでしょうよ」
「あー、それは気が付きませんで」
仕方ないのでバリバリという咀嚼音をBGMに漫画を読み始める。
しかし、こうやって横でおいしそうな音をさせながら食べられるとだんだんと食べたい気持ちが大きくなるのは何故だろう。
「漫画閉じておくから、やっぱりちょっとちょうだい」
食欲に負けてそう頼み込むと、彼女はニヤリと笑う。
「残念。もうありません」
勝ち誇ったような笑みにいらついていると、彼女は更に言う。
「ハッピーターンのメインは粉だってよく言うじゃん?」
いったい急になんだ。
「ほれ、メインをあげてもよろしくってよ」
そう言って私の顔の前に粉の付いた指を突きつけてくる。
「あんた、私のこと舐めすぎじゃない?」
こめかみがぴくぴくしているのを感じながら苦情を訴えた。
「ん? 舐めるのは私じゃなくてあんただよ?」
この野郎! 野郎じゃないけどそんなことはどうでもいい!
そして、どうやったらこいつの顔を明かしてやれるだろうかと考える。
数瞬の後、私はその指を口に含んでいた。
普段の自分が最もしなさそうな行動を選択して、奴を驚かせてやろうと思ったのだが、眼を見開き真っ赤になった顔を見てこちらまで恥ずかしくなってしまった。
いたたまれなくなって指を開放する。
数秒の沈黙を破ったのは彼女。
「もうちょっとあげようか?」
意味が分からず疑問を口にしようとするも彼女に唇をふさがれた。
粉はもう、まったくの端役でしかなかった。