妄想
Scene19
「馬鹿じゃないの」
目の前で自分の想い人がいかに魅力的かを、そしてその人に対して何故自分が行動に移せないのかという言い訳を長々と語り続ける彼女にうんざりしてそう言い放った。
その言葉に彼女は眉をハの字にして抗議を申し入れてくる。
「馬鹿ってことはないでしょうよ。傷つくよ? 私」
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い。馬鹿」
そんな彼女に私は顔を近づけて追い討ちをかける。
彼女がそれを真に受けないことはわかっているからこそ言える台詞だ。
彼女は予想通りわざとらしくしなを作っている。
「ひ、酷い」
「こんなところで私に向かって語ってたって何にもなりゃしないでしょうよ。そんなことより他に出来ることがあるんじゃないの?」
私の言葉に彼女はそうなんだけどねえと呟き煮え切らない。
これまでに私が出来るアドバイスは出し尽くした。
それなのに彼女はまだこの期に及んで尋ねてくるのだ。
「ねえ、どうしたらいいと思う?」
知るか。
「もう、あとはあんたがどう行動に移すかだけだと思うけど」
それでもまだ煮え切らない彼女に、私の苛立ちは最高潮に達した。
「いいから、今からその人にメールしろ!」
机の上に置いてあった彼女の携帯を突きつけると、何やらもごもご言った後、彼女は携帯を手に取り操作し始めた。
何て打てばいいのだの、急すぎないかだの未だに言ってくる彼女を無視して、煙草に火をつけ煙を吸い込む。
何よりも苛立つのは、諦めるでもなく、行動に移すでもなく、そのくせ偉そうにその相手に講釈を垂れている自分。
──馬鹿じゃないの
そんな言葉の代わりに肺に溜まった煙を吐き出した。