妄想
Scene15
少し遅れて待ち合わせの場所に行くと、遠目に友人の姿を見つけ駆け寄った。
遅れたことを詫びようとして作ろうとした笑顔は中途半端なまま固まった。
メイクで痣は隠してはいても、目の周りの腫れぼったさまでは誤魔化せていない。原因なんてわかりきっている。
「あ、やっと来た。遅いよ」
「うん、ごめん」
そのまま目的の場所へ移動しようとする彼女。
私は敢えて答えの見えている質問を投げかけた。
「それ、旦那さん?」
答えの代わりに眉根を寄せて力なく笑う彼女。
その表情に咄嗟に伸びてしまった右手は、しばらく着地点を探して宙を彷徨った後、抜け落ちた一筋の髪の毛を彼女の肩から摘まみあげた。
こんなことがあるたびに、彼女の友人でしかあり得ないこの身が疎ましくてならなかった。
あと何度、彼女はその痛みに耐えるのか。
あと何度、私はこの痛みに耐えるのか。