妄想
Scene14
「暇」
年が明けて何度目かもわからなくなったお雑煮を眺めながら、彼女が誰にともなく、そう呟いた。
私は餅がどこまで伸びるかを試していたところだった。
意外にあっさりと千切れた餅がつゆの中にぽちゃりと落ちた。やはり、市販の餅ではコシが物足りない。
「ねえ、暇」
彼女が今度は明らかに私に向けてそう言った。
「ああ、そう」
雑煮を食べながら答える。
眼鏡に跳ねた雫が鬱陶しい。
「なんか面白いことやれ」
「なんか面白いことって……」
口の中の餅を噛みながらその何かを考えていると、閃いた。
「整いました」
「お、なぞかけか」
ようやく、雑煮を食べ始めた彼女は餅にかぶりつきながら私の発言を待っている。
「栗きんとんとかけまして、目の前にいるあなたと解く」
「ほう、栗きんとんと私か。その心は?」
「ねればねるほど艶が出るでしょう」
彼女は首をかしげ、意味がわからないという様子。
仕方がない、解説してやろう。
「栗きんとんって作るときに火にかけて練ることで艶を出すじゃない?」
「ああ、そうなの?」
「そうなの。で、『練る』と『寝る』をかけているわけなんですが……」
「下ネタか!」
「おーめーでーとーうーごーざいまーーす!!」
「誤魔化すな!」
我ながらくだらないネタに突っ込みを入れた後、彼女は呆れ顔で雑煮をすする。
仕方ない、建設的な意見を出すとするか。
「これ食べたら、どっか出掛けようか」
「ん? んー」
せっかく出した意見なのに彼女は乗り気ではない様子。
まったく、そっちが暇だって言い出したんでしょうに。
「出掛けたくないの?」
「んー。なんか面倒臭い。家でダラダラしてたいかな」
「おい。暇だって言い出したのはあんたでしょうが」
「いやあ、明日から仕事かと思うと疲れることしたくないな、と。ほら、二人で過ごす優雅な休日ってことで」
「ああ、わかった。艶を出すのね。しょうがないなあ、こんな昼間っから」
私の一言に口の中の物を吹き出しそうになった彼女は、むせ返りながらもなんとか飲み下すと必死で否定する。
私はそれをニヤニヤ笑いながら受け流した。
そんな、正月最後の休日。