ひまつ部①
部活動
「さぁみんな! 部室を有意義に使うにはどうすべきか考えるわよ!」
ティアの威勢良い声が部室に響き渡る。
俺達ひまつ部の部室は約10畳とそこそこ広い。
少し縦長の長方形の形をしているが、妙な出っ張りも無く使いやすそうな感じである。
俺達5人は空っぽの部室を舐めまわすように見つめる。
いや、訂正しておこう。舐めまわすように見つめているのはティアとロリの2人だ。
「ティア! この部室には何もないぞ! これではくつろげない!」
部室なのにくつろぐのかよ。部活はしないのかよ。
「そうね、とりあえずはテーブルなんかは欲しいところだけれど。暇つぶしをするための部屋と考えれば…」
「おいティア! 部室なのに暇つぶしをする部屋ってどういうことだよ?」
「アンタバカぁ? 暇つぶしをする部活なんだから、部室は暇つぶしをするためのものが揃ってなくちゃ意味ないじゃない」
なぁ、それでいいのか? 本当にそんな部活でいいのか学園!
「はるはたくさん本を読みたい。だから本棚が欲しいな」
ぼそりと呟く春樹。どうやら俺と考えていることは同じものの、部室を目の前に自分の欲求には勝てないようだ。
「ロリはゲームがしたいぞ! だからテレビとゲームを持ってくる! あ、快適にプレイするには絨毯やソファーなんかも必要だな!」
「そうね、あとはお茶菓子を用意できるようにしておかないとね。不意の来客にも対応できるように!」
おい、絶対違うだろ。ゲームしながらお菓子食べるつもりだろ!
「お茶菓子用意できるようにするんだったら、簡易的なキッチンが欲しいなぁ。ほら、お湯沸かすのに必要でしょ? あとお腹すいた時にちょっと炊事できると便利かも!」
お、おい陽向までなんという…
「よぉし、必要なものはなんとなく出揃いそうね。ロリ、お願できるかしら?」
「ティア! ロリにお願いするのか! ロリが任されてもいいんだな! ロリ頑張るぞ!」
「うふふ、いい子ねロリ… 全部ちゃんとこなす事ができたらおねーちゃんが――」
ぺしっ
「あだっ」
「だから見えないところでやれと言ってるだろう!」
もはや恒例行事となりつつあるティアとロリの暴走フラグをへし折る。
そして、2人の物凄く不満な視線を全身に浴びながらリストを作成する俺。
「お兄ちゃん何してるの?」
「用意するものがある程度決まったんなら、リストに書き出しておく方がいいだろ? 買いもれが無いようにしたり、買いすぎたりしないようにだな」
小さい頃から何かと自分達で生活しなくてはいけなかったためか、こういったことに関しては同い年のやつらよりしっかりしているつもりではある。
無駄遣いはできないしな。無駄遣い… 待てよ、この部の予算は…
「なぁ! この部活の予算とかどうなってんだ? みんな好き勝手に欲しい物言ってるけどさ」
「なぁに、気にするな。ロリが全て用意する! ティアに任されたのだ! 蒼空は黙って買い物リストを作り上げればいいのだ!」
こ… コイツ… あぁ、いかん。これでも一刻の王女様なわけだ。下手な行動は慎んでおこう。いつ足元すくわれるかわからんからな。
とりあえず、部の予算とは関係なく個人的に持ち込むのであれば別にいいだろう。もう、知らねえよ俺。
「ロリ。とりあえずリストを渡しておくな。まだ足りないものとかあれば随時入れて行けばいいだろうし」
「よし! じゃぁ早速準備してくるぞ! ティア、一緒に行こう!」
「そうね、部長たるアタシがいなくてはどうにも始まらないからね。じゃぁ雑用、後は頼んだ!」
「へいへい」
2人はきゃっきゃ黄色い声を上げながら部室を出て行く。
ふぅ、ようやく静かになったか。もう雑用呼ばわれでもあまり気にならなくなったな俺…
「どんな部室になるんだろ、ちょっと楽しみだなぁ」
陽向が瞳を輝かせながらくるくる回っている。
「今日のところはこんなもんだな。活動もまだできないし帰るか」
俺達の部室一日目は難なく終えた。
翌日の放課後、ひまつ部にて。
俺は目を疑った。昨日まで何もなかった部室とは思えない変貌ぶりなのである。
床に敷かれた絨毯、どう見ても座り心地の良さそうな高級ソファー。壁一面が画面なのか、と思わせるほどデカいTVモニター。傍には大きな棚が並びティーセットやらゲーム機やらが整頓されていた。
小さいながらに給湯室も設置され、その傍には大きなテーブルがある。この大きさなら部員全員が座っても余裕の大きさである。
「なんじゃこりゃぁ…」
「蒼空、何を突っ立っておる。中に入れんではないか」
ロリが平然とやってくる。部室の変貌についてロリから聞いていたのかわからないが、春樹も部室の中をしきりに覗こうとしている。
「わ、わりぃ」
とりあえず部室に入り、身近にあったイスへ腰掛ける。
ふかふかのソファーにぴょんと飛びこむとロリはゴロゴロし始めた。
「どうだ蒼空! なかなか快適な部室になったであろう! ちょっと部屋が狭くて置ける家具が限られてしまったが、まぁこればかりは仕方ないな!」
「ロリ、やればできる子… ナイスっ」
春樹といえば窓際の椅子に腰かけ、女性向けの雑誌をペラペラとめくっている。
「へぇ、なかなかいい部室じゃない!」
部室のドアがガラリと開ける前から声が聞こえた気がする。
騒々しい部長さんのお出ましだ。
「これなら今後の活動も精が出そうね!」
「ティア! さっそくゲームをしよう! もう準備はできているぞ!」
「よっしゃぁ! 始めるわよー! あ、雑用? お茶」
なんかここ数日でティアが俺に対しての扱いが酷くなっている気がするのは気のせいだろうか。
いや、絶対気のせいじゃない。
俺は全員のお茶を入れるとソファー前のミニテーブルにお茶を置いた。
巨大なTVモニターにはゲーム会社と思われるロゴが表示され、ゲームのタイトル画面が映し出される。
「あー、このゲームって今超流行ってるやつじゃない! 良く手に入れられたわね!」
「ふふん〜、ロリの手にかかればこんなものチョロいものだ!」
「なんだ、このゲーム流行ってるのか? どんなゲームなんだ?」
俺はあまり家庭用のゲームってのを見たことが無い。
どちらかと言えばゲーセンでUFOキャッチャーやコインゲームの方が好きだからな。
「蒼空、このゲームを知らないのか? ホントにダメな男だな」
「そうね、アンタみたいなやつこそがこのゲームをプレイすべきなのかもしれないわね。とりあえず一緒に見てなさい!」
俺はこの2人が行っている意味がさっぱりわからなかった。
画面に映し出されたタイトルはプラスラブと書かれていた。
ティアは始めから、という項目を選択し次の画面へ移る。
どうやら主人公の名前を入力するらしい。
「そうね、ここはアンタの名前を入れておくわ。ざつよ…」
「おい、ちょっと待て! なんでそこまで雑用なんだよ、せめて名前で入れろよ」
「仕方ないわね…」
心底残念な表情を見せながら蒼空の文字が入力される。
一体なんなんだこのゲーム。
『俺の名前は蒼空。この春から**高校に通うことになった。10年ぶりくらいにこの街へ戻ってきた俺はここで新生活をスタートさせる。』