ひまつ部①
「お前はバカか!」
「ったいなぁ! 何すんのよ!」
コツン、と頭を小突く。今後こういうことが無いように釘をさしておかなきゃいけないな。
全く、俺の平穏な学園生活を返せよ。
「職員室で教師に色仕掛けをするやつがあるか! お前もう少し考えろよ!」
「アタシなりに考えた結果よ! じゃぁ顧問どうすんのよ!」
「お前、自分に任せとけって言ってただろうが…」
もはや責任転嫁、自己中、逆切れなんでもありなのだろうか。
無駄に床を踏みこむティアを横目に、俺はロリと春樹がいる多目的ルーム前まで戻ることにした。
多目的ルーム前に戻ると、ロリと春樹以外に見慣れない女性が立っていた。
歳は30代半ばといったところか。もう少し幼く見える気もするが、栗色の真っ直ぐに伸びた髪にスーツ姿。いかにも仕事ができますといった眼鏡。あれ、この人…
「ティア! たまちゃんが顧問してくれることになったぞ!」
「ロ、ロリ! 田牧理事長でしょ! すいません、すいません」
「なぁに良いって! 他ならぬロリちゃんの頼みとあればぁ、この田牧亜実(たまき つぐみ)全身全霊を込めてお相手致す!」
「な、なに! ロリ、でかしたわああああ!」
な、なんなんだこの展開は。つーか、この人が理事長って… やばい、この学園かなり危険な気がする。
「つまりだな、多目的ルームの前で困り果てていた時にたまちゃんが通りかかったというわけだ!」
「いや、全然意味わからんから! 田牧理事長、詳細を教えていただけますか?」
ロリの説明は何というか大事な部分が飛び過ぎていて説明の"せ"の文字すら遥か宇宙に感じるほどの残念な語りだった。
いや、この子に説明させた俺が悪いんだ。そうに違いない…
「そおだねぇ〜、簡単に言えばロリちゃんはうちの学園にとっても非常に重要な子なの! 彼女の母国は小さいながらに文化を非常に重んじる国でね、日本の文化を学ぶためにうちへ来ているのさー! あはっはっはっは」
目を覆いたくなるような説明だった。
理事長までもがまさかここまで残念だとは思いもしなかった。
「えっと… はるが説明するね。ロリは母国の産業文化を発展させるために日本文化を学びに来ているんだ。向こうでは室内娯楽が主に発展していて、その娯楽に目を付けたのが日本のアニメやゲームといったもの。これらの技術は日本がトップクラスだからね。その技術を学ぶべく日本へ滞在しているのだけれど、まだまだ学習もしなくてはいけない年齢なので、どうせなら日本の教育システムにも触れておこうって話しらしいよ」
あぁ、春樹ありがとう。今日ほど君を頼もしく思えたことはない。
そしてロリという人物も少しわかった気がするよ。
「で、そのロリを任されているのがこの学園。つまりこの学園の理事長はロリの機嫌を損なうわけにはいかないってことだよね。結局はお国絡みの問題さ…」
「おぉう…」
なんかだんだんブラックな表情になって来てた気がするのは見なかったことにしよう。
「別にロリの機嫌を取ったからどうだとかはないぞ! たまちゃんとは熱く語り合った同志なのだからな!」
「やっだぁロリちゃんてばっ」
関わりたくない、この人たちに関わりたくない俺の平穏な日々を返してくれ…
俺のささやかな願いは当然聞き入れてもらえるはずもないが。
「いいとこのお嬢様ってのは聞いてたけどまさかそこまでだったとはね! ロリ、やるじゃない」
「ティア! もっと褒めてくれ! ロリは褒められて伸びる子だ!」
「仕方ないわロリ… アナタのそのロリロリなボディを隅々ま――」
ぱちこんっ
「ったぁーい! 何すんのよ!」
「いいからそういうのは見えないところでやってくれ」
この2人を野放しにしておくことの方がよほど恐いわ。
暴走を始めようとしていたティアのフラグを根本からへし折るため、後頭部にチョップを入れ事なきを得た。
「ですが田牧理事長よろしいのですか? 理事長が顧問だなんて…」
「もー、たまちゃんでいいよっ! それに顧問になるって言っても一時的によ。ちゃんと替わりの先生を探してくるからそれまでの間ということで。部として設立してないなんてちょっと可愛そうじゃない」
い、意外によく考えているというか… 良い人だな理事長。
「とりあえず手続きに必要なものは揃えて渡すから今日は大人しく退くのよ! オズファルトの遠征軍が来る前に! あぁっ オズファルト! まさか君が私達を裏切るなんて! でも私は決して諦めは――」
まぁ何だかんだで部活として設立できそうなのでよし、とするか。
あの後延々とオズファルトだのシルヴァラードだのエルウイルスだの謎の単語を連呼しつつ田牧り… たまちゃんとティア、ロリの3人は痛々しい会話に花を咲かせていた。
特にやることも無いと感じた春樹は早々に寮へと戻っていた。
結局、ティアは部活の設立に関して全く役に立たなかったな。
俺、振り回されただけじゃねーか… あぁ、もう疲れた。今日はさっさと寝よう。
ひまつ部設立への壮大な物語が今ここに完結した。