ひまつ部①
「では、始めますね」
沖田さんの言葉と共に俺達の意識はゲームに制御された。
って言えばいいのだろうか。一瞬、意識がすぅっと薄れたと思った矢先。
「うっわー! 何これ! 本当にゲームなの!?」
目の前にはひまつ部のメンバーがいる。しかし、洋風の建物が周りにあり先程いたゲーム会社の風景とは大きく異なる。
沖田さんの解説によれば、直接脳へ五感信号を送りつけているので本当に体験している状態と変わらないらしい。
人間の身体ってつぐづく不思議なものだな。
『みなさんのキャラクターは自動作成とさせてもらっていますので、外見は実際となんら変わりないかと思います。あとは、コンピューターが勝手に適正の職業を設定していると思いますので、各自ステータス画面にて確認しておいてください』
まさに天の声、と言わんばかりに世界に響く音声。どうやら、沖田さんが外側から話しかけているらしい。
職業とかってなんだろうか・・・ 俺は今からやるべきことに困惑していると
「おにいちゃん♪ 見て見て〜! これ可愛くなあい?」
白衣のナース服のような、でもちょっとイメージが違うのだが胸元についている十字架の模様が何だか印象的なコスチューム。
「わたし職業ビショップだって! ビショップってなんだろう?」
「僧侶だよ。主にパーティーの回復を担うみたいだね。陽向お姉ちゃんとても重要な職業だよ」
陽向の質問に対し、そばにいたななたが答える。
そんなななたは虎耳としっぽが生えた良くわからないコスチュームになっている。
「僕、職業トラネコらしいです…」
役にたつのか全く不明な職業に任命されたななたはどこか寂しげである。
しかし、よく似合っている。マスコットの印象が見てとれた。
「はるはソーサラーというものらしい。なんだろう?」
全身をバスローブのようなものに身を包んだ春樹。
なんとなく頭のフードに耳がついている気がしなくもないが、そこは見なかったことにする。
「召喚師だね。何かを召喚して操ることで能力を発揮するタイプだよ。一般的には召喚獣と呼ばれる生物を扱うみたいだけれど、このゲームではどうなんだろうね」
またしてもななたが解説を入れてくれる。もしかしてこういうゲームに慣れているのか?
「きゃぁあああっ ロリ! 可愛すぎ!」
「ティアも十分かわゆいぞ!」
ピンク色を通り越して何とも表現し難い声できゃあきゃあ盛り上がっているティアとロリ。
ティアはよく日曜日の朝に放送している魔法少女みたいな格好をしている。これまた思いっきり似合っているのがなんとなく腹ただしい。
ロリに関してはもはや想像通りというかなんというか。以前見たコスプレそのままのような気もする。
コウモリのような格好で羽としっぽが生えている。どうしてこうも似合うのだろうか、その部分が大きな謎となりそうだ。
これも七不思議のひとつに入れておこう。
「アタシはウィザードだって〜。なんか名前かっこよくない!?」
「ロリはヴァンパイアだ!」
「ティアさんは攻撃系の魔法を操る魔法使いですね。ロリちゃんは… なんだろう?」
何だかんだでみんなそれなりな職業についている。俺と言えば…
「蒼空お兄ちゃんはナイトだね! 前線で活躍する重要な職業だよ!」
ななたが笑顔で俺に解説をしてくれる。こういうゲーム好きなんだろうか。
それにしてもナイトとはまた大変そうな職業だな。
『みなさんの職業が確認できたようなので、ギルドへ行ってクエストを受けてきてください。何事もそこからですよ〜。ではではテストよろしくお願いしますね!』
沖田さんの最後ともとれるアドバイスが響き渡る。
しかし、本当にゲームの中なのか、と疑ってしまうほど現実世界と区別がつかない。
脳を直接制御するとこうも違うものなのか。なんか、未来にタイムスリップした気分だ。
こうして、ひまつ部の仮想世界体験という新作ゲームテストが開始された。