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ひまつ部①

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「おぉ、たまちゃん! 今回のことはもう知っておるのだな!」
「ロリちゃぁん、あたりまえよぉ。わたしを誰だと思ってるの! 3度の飯よりゲーム好き! 3度のトイレよりアニメ好き! こなしたオンラインゲームの数知れず! チート反対! ダメ、絶対! コレクションしたフィギュアやDVD限定版BOXはわたしの宝物よ!」
もう俺には突っ込むことができなかった。強大な力の前ではちっぽけな存在などミジンコと同じようなものなんだろう。いや、それよりもこの人ヤバイ気がする。なんて言うか人間的に。

「へぇ、たまちゃんすごいわね! 食券乱用って感じ!」
ティア、食券ではなくて職権でしょう。例え漢字が合っていても意味不明だがな。
今日の俺はツッコミが冴えてるぜ! もはや自分自身にすらツッコミを入れたくなってきたこの状況がつらい。

「まぁ、今回の件についてはたまちゃん頑張っちゃったからね! 何と言ってもこのゲームの凄いところは完全体験型なのよ。エクステンションシミュレートと呼ばれ、ゲームがプレイヤーの五感を完全に制御する仕組みなのよ。つまり、本当にそのゲームの世界に入り込んだ形でプレイできるわけ。どう! すごいでしょ! 発売まで待ち切れなくて! もう――」
話出したたまちゃんは止まることを知らないマシンガンの様に言葉を乱射する。リロードなんてものは存在していない。

『ぴんぽんぱんぽーん』
不意に構内アナウンスの放送が流れ始める。

『校内どこかにいる田牧理事長! さっさと理事長室に戻ってこんかぁぁぁ! さもなくばテメェの大事にしてる***とか*****をぶっ飛ばすぞゴラァァァァァァァァ!!!』
どうやら生徒の呼び出しではなく理事長の呼び出しのようだ。
しかし、この放送誰がしゃべってるのだろうか… そして酷い内容である。

「ひ、ヒィィィィィィィッ」
先程まで明るく無邪気にはしゃいでた田牧理事長の姿はなく、ただこの世の絶望に怯えるだけといった表情がそこにあった。
っていうか早く行けよ。

「み、みんな… た、たまちゃんちょっと用事があるから… ごめんね… お、お仕事とか大変… うわあああんっ」
何が何でもここに居たいと言わんばかりの田牧理事長。しかし、そうも言ってられない状況だということだけなんとなく察しがついた。

「たまちゃん! こっちはロリたちに任せるのじゃ! たまちゃんはたまちゃんにしかできないことがあろう! 救ってやるのじゃ、たまちゃんのコレクションたちを!」
「そ、そうね! あの子たちを守れるのはわたししかいないのよ! 待っててアルフォンス! リゲルヴァィン! トンポーロー!」
アニメのキャラクターなのかわからないが、なんとなく想像はできた。多分フィギュアとかその類だろう。早く戻らないと、そのコレクションが処分されてしまうってことだな。うちの学校こんなんで大丈夫かよ…

「たまちゃんの犠牲を無駄にしないためにもアタシたちはアタシたちにできることを精一杯やるのよ!」
「「「おぉーーー!!!」」」
ティアの熱弁に俺以外の部員は手を高々と上げ賛同する。陽向、お前までもこのノリについていけるようになったのか。
何やら熱苦しい言葉を並べ、皆はそれぞれ「たまちゃん」を連呼する。なぁ、これ何のノリなんだ教えてくれよ。
完全に乗り遅れた俺は疎外感100%でちょっと寂しかったりもする。いや、ほら。一緒にいるのに一人だけ仲間外れみたいで嫌じゃないか。

「じゃぁみんな! 次の土曜朝9時に駅前集合ね! 遅れたやつは凄いことになるから!」
具体的にどうなると言わないところがティアらしいのか。それとも何も考えていないのか。
まぁ、田牧理事長の言うゲーム内容が本当だとすれば結構興味はあるな、というのが正直なところ。
コントローラー握ってプレイするゲームよりも、体験型の方が性に合っているというかなんというか。
ちょっと土曜日が楽しみになってしまった自分が気恥ずかしくもあり、この空気に馴染んでいる事実が辛かった。

待ちに待った土曜日。
楽しみにしてる遠足前夜の気分で寝れなかった、とかそういうわけではないが朝から気分が高揚しているのは間違いではない。
それは俺だけじゃなく妹の陽向も同様だった。

「おにいちゃん、楽しみだねっ どんなゲームなのかな?」
「今までにないタイプの体験型ゲームなんだろ? 気になるよな」
俺達2人は集合時間に余裕を見て駅前へ向かっていた。学校の寮組に比べたら駅はかなり近いのでかなり時間としては余裕があったのだが…

「おっそーーーーーい! 今何時だと思ってんのよ!」
集合場所には既に全員の姿があった。何だよ、集合時間まで30分あるだろうに…

「遅刻よ遅刻! アンタ凄いことになるからね!」
「ティアさんごめんなさいぃ〜」
陽向が困ったように謝る。

「陽向はいいのよ。女の子なんだから。問題は蒼空! ダメダメね」
あまりにも理不尽な理由から俺は凄いことを体験する羽目になった。さて、凄いことってどんなことなんだろうか。
若干面倒になって突っ込みを入れていないのは気のせいということにしていただきたい。

「あれ、茄奈とこのたがいないな?」
俺は集合しているメンバーを見て2人足りないことに気がついた。

「茄奈はバイトだって。このたはサッカー部よ。まぁ仕方ないわ」
貴重な体験を逃してしまっている2人の分もじっくり味わうことを決意した俺だった。
任せておけ、体験型ならバッチリプレイするさ。

目的地は当然開発しているゲーム会社となる。
道中、恐ろしいほど改めて伝えることが無かったためスッパリと割愛させていただく。
いや、いつも通りだよ。ティアとロリが車内でいかがわしいことを始めようとしたり、陽向が俺のトイレを覗こうとしたり、春樹が事あるごとに人生挫けそうになるほどの突っ込みをさらりと入れてみたり。
ななたが一番大人しくて助かった。ただ気が弱いのか、あまり意見を言うことはなかったが。
この辺は同じ男として立派に教育してやろう。ひまつ部の輝かしい未来はななたにかかっているような気がした。

たどり着いたゲーム会社はそれほど大きいわけではなく、今回のゲームに将来を賭けているといっても過言ではない状況だそうだ。
つまりは崖っぷちということか。俺達が知らないところでみんな必死なんだな、とちょっと将来を見つめたくなくなるそんな俺。

「こちらが今回テストしていただくマシンとなります」
沖田さんと呼ばれている、20代半ばの男性が物腰柔らかに説明を始めた。
当然数名は話を聞いちゃいないが。

「そんな面倒な話はいいわ! さっそく始めるわよ!」
ティアとロリはマシンの中に入り込む。
マシン自体は卵の形をした球体になっており、中には座り心地良さそうなソファーと多すぎるほどの配線。
この辺はテスト段階だからまだごちゃごちゃしているらしい。
そのソファーに腰かけ、身体のいたるところに配線を取り付けていく。何かドラマなんかでたまに見る医療機械の凄いやつ、としか表現できそうにもない。

作品名:ひまつ部① 作家名:天宮環