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ひまつ部①

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仮想世界



今日はいつもの200%増しと言ったところか。視線を合わせずともいとも簡単に貫けるほど鋭く、そしていっそう熱い視線を浴びている俺。
別に紫外線浴が趣味だとかそんなことを言うつもりは全くない。部室に来るタイミングが悪かったとしか言いようのないこの状況。
ひまつ部の長であるティアと二人きりな初夏の放課後。降り注ぐ紫外線も一層強まり、時折夏を感じることができるほどの暑さも感じられる。
だが、俺が浴びているのはそういった自然の摂理とは大きくかけ離れた人害要素を多分に含んでいる。

「…しら。 何か… こと… ないかしら」
一見ソファー側でくつろいでいるように見えるのだが、足は床を何度も踏みつけその部分だけ剥げてしまうのではないか、と心配してしまう。
何かの儀式のように延々と繰り返される謎の言葉。小さくて聞きとれないものの、予想からして「何か面白いことないかしら」とでも言っているのだろう。暇な時間が続くと決まってこの症状が起きるのだ。こんな時はそっとしておくことが一番の有効手段。触らぬ神もなんとやら。
だが、しかし。だがしかしである!
決まって俺はそういった状況のティアと2人きりで遭遇することが多い。何だろうな、運命の糸で結ばれてるのか。まるで笑えない冗談に自分自身ブロークンハートに陥りそうになるのを必死にこらえつつ俺はただひたすら祈り続ける。

早く誰か来てくれ、と。
世の中、そうそう旨く行くもんじゃない。こんな時は決まって誰も来ないのだ。この状況を俺一人でなんとか打開してみろ、という運命からの挑戦状なのだろうか。だが断る。誰がそんな挑戦状を頼んだのだ。俺は景品に応募もしなければ、挑戦状なんて済む世界が違いすぎる。それなのにこの残酷な状況をいとも容易く傍に置いてしまう辺り、俺のちょっとした特殊能力なのかもしれないな、なんてくだらんことを考えていたら――

「ティア! 遅くなってすまない! クラスのバカ共がホームルームを伸ばしおってな!」
「お疲れさまでーす、遅くなりました」
ロリと春樹の2人がやってくる。とりあえずこの状況が大きく変動する可能性は現状維持に比べ何と幸せな世界なことか。
死んだじいちゃんやばぁちゃんが見えないことを確認し、俺は安堵する。大丈夫、まだ生きている。

「ロ゛ォォォォリィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛…」
普段からは想像もつかないほど拉げた声を発するティア。どこから声が出ているのか全く分からない。ひまつ部七不思議のひとつに命名しておこう。合わせて七つで収まればいいと願う俺がいる。
ロリがティアの隣にちょこん、と座る。と、思いきや

「隙ありじゃぁ!」
ロリはティアの胸目がけハイジャンプ&ダイブ。まさにガバァッっと襲いかかる感じで抱きついている。あぁ、また始まった。今回は何の前触れもなく。

「やぁっ、ちょっとロリっ あぁんっ、急にそんなっ」
先程までのドスの聞いた… なんだデスボイスっていうのか? そんな悪霊に取り憑かれたような声色が一転し、なんとも可愛らしく甘酸っぱい音色へと変化する。表現してる俺まで恥ずかしくなってくるんだが。

「ティア〜、相変わらずいい香りじゃ! ロリはこの香りが堪らなく好きじゃ!」
今一瞬羽と尻尾が見えた気がするが気のせいだろう。先日のコスプレの印象がどうも強すぎたみたいだ。
俺は目のやり場に困り春樹の方へ視線を送る。主に何とかしてくれ、の意味を込めて。

「…ポッ」
そんな春樹もなぜか俺と視線が合うと頬を少し赤らめ、逃げるように視線を外す。なんでだよ。

「さて、冗談はさておき。ロリ〜、今日はお知らせがあったんでしょ? それを伝えないと」
頬を染めていたかと思えばいつも通りの春樹に戻り、ロリに本日の目的を伝える。

「うむ、そうじゃな! ティア、実はだな…」
「隙あり!」
「な、何をっ」
ロリからが上に乗りかかっていたはずの姿勢がいつの間にかティアが上になっている。
一瞬の隙をついてぐるりと立場が入れ替わった。

「さぁ、子猫ちゃん… 先程のおいたのお返しよ… ウフフ」
目を若干細ばめ、唇をペロリと一舐めする。

「いい加減にしろ」
「あたっ」
後ろのガードが隙だらけだったので、ティアの後頭部へチョップを一撃。
誰か止めないと話が進まないのか。こんな時の常識人加奈は今日もバイトだろうか。

「何すんのよー! いいじゃないちょっとくらい!」
「いいところだったのに、余計なことをしおって!」
ティアとロリの猛烈な抗議が槍の如く飛ばされてくる。そんな屁理屈で固められた槍など大した殺傷能力はないのだが。
そして"ちょっと"という単語に多いに引っ掛かるが、いちいち気にしていては一日48時間あっても足りないことだろう。つまり、俺は華麗にスルーを決め込む。

「ロリ。今日はネタがあるんだろ? それを伝えてから後でじっくりやれ。見えないところでな」
「バカモノ! 見えなければ読者は萌えを味わえんだろうに! 全くお前は何を言っておるのじゃ!」
ゴメン、ロリの言っていること一字一句わかんねぇよ…
えらく機嫌を損ねてしまったロリだが、ティアはその状況を特に引きずることなく言葉を続けた。

「ロリ、ネタって何か面白いことでも?」
よし、ネタという文字列に食い付いた! とりあえずこれで物語は前に向かって進むはずだ。
全く、進行しない物語に身を投じるのも大変だぜ。

「うむ。なかなかに面白い情報を手に入れてな。是非ともひまつ部の皆で参加しようと思ったのじゃ」
えっへん、と自慢げに胸を張るロリが年相応に見えて俺は安堵した。そんなことはどうでもいい。

「遅くなってごめんなさい、お兄ちゃんっ」
「うわー遅刻だぁぁっ」
不意に部室のドアが開けられたと思えば、陽向とななたが流れ込んできた。
部室に向かう途中に蝶々を見つけて追いかけていたら神社の方まで行っていたそうだ。2人して。
詳しいことはもうどうでもいいので割愛させてもらう。

「では気を取り直して本題に入るぞ!」
コホンと咳をし、ロリはいつになく真剣な眼差しで周囲を見渡す。
誰しもが固唾を飲み、次の一声を待っていた。

「はる、説明してくれ!」
ズゴガッシャーン! とどこからか聞こえてきそうなほどズッコけてしまいそうになるのを抑える俺達。
何だよ、説明できないなら最初から任せておけよ。

「じゃぁはるから説明するね。ロリの国の傘下にある企業が日本と提携してある体験型ゲームを制作しているそうで。そのゲームのテスターを今回依頼されたみたいなんだよ。開発中のゲームに触れるとても貴重なものだよ」
「な、なんだってー!」
目を輝かせて絶叫染みた声を上げるティア。特別とか貴重とかそういった単語に反応しているんだろうきっと。

「それはどういったゲームなんだ?」
「えっと、それはね…」
「は〜い、はいはいはい! それはたまちゃんから説明しようっ!」
肝心のゲーム内容についてサッパリなので、春樹に疑問を届けた瞬間のこと。
たまちゃんこと田牧理事長がひまつ部部室へやってきた。

作品名:ひまつ部① 作家名:天宮環