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ひまつ部①

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足りないもの



現在ひまつ部は危機的状況にさらされていると言っても過言ではない。
ふわりとした金碧の髪の毛に強すぎる意思を主張したどこまでも深い緑色の瞳。
なぜかはわからないが、その瞳が俺をがっちりと捕えている。

「蒼空ァ!」
放課後のひまつ部部室内にティアの荒ぶった声が響く。
冒頭の文章を訂正しなくてはいけない。ひまつ部が危機的状況なのではなく、俺がその状況に置かれているということだ。
理由は全くわからないが。
何をイライラしているのかはわからないが、さっきからしきりに足を床に打ち込んでいる。
テーブルの揺れる音が耳障りだ。

「蒼空ァー!!」
「なんだよ、聞こえてるって」
キッと睨みつけるティアを横目に俺は給湯室でお茶を入れる。
現在部室には俺とティアの2人だけ。この状況を大人しく座っていられるほど俺は精神が鍛えられていない。
背中に威嚇されるような鋭い視線を受けながら、俺は小さくため息をこぼす。

「ティア。大福あるぞ、食べるか?」
「喰う!」
小皿に大福を盛り、温かい番茶を差し出す。まるで献上品のようだな。
彼女のとって食事はもはや喰らうことなんだろう、と伺える元気の良い返事。
やはりあらゆる角度から見ても将来への不安要素盛り沢山である。

「いただきまぁーっ」
言い終わるかどうか、というタイミングでティアの口の中は大福で一杯になる。
コイツ、何か食べているときが一番笑顔なんじゃないだろうか。
そんなことを感じさせる活き活きとした表情だった。

「あぁ! ティア! 何を食べておるのじゃ! ロリにも分けてくれ!」
「お疲れさまでーす」
ロリと春樹が部室にやってくる。
入ってくるなりティアの食している大福に目が行くとは、どんだけ食欲旺盛なんだ。
程なくして他の部員もぞろぞろとやってきた。

大テーブル側に俺、陽向、ななた、茄奈。ソファー側にティア、ロリ、春樹。
この部屋に7人ともなるとやや狭さを感じるな。そして部員勢ぞろいか。このたと顧問がいないけど。

「一応今いるメンバーがほとんどなのか?」
茄奈が周囲を見渡してから俺に質問を投げかける。
部長であるティアに問わないところがやはり常識ある人なんだと感心してしまう。

「まぁ、そうだな。あとはこのたと顧問の田牧理事長がいるけれど正式な顧問じゃないからな」
「理事長が顧問って。なんかすごいな…」
関心する茄奈もそうだが、さり気なく全員にお茶を用意している陽向。そしてそのお手伝いをするななた。
2人とも関心関心。
それに引き換えソファーの2人組と言えばどうだろうか。
ひたすら大福を奪い合うようにむさぼるティアとロリ。
何か汚い物を見つめるような春樹の組み合わせは痛々しいものがある。

「丁度いい機会だわ! みんな、話しがあるの!」
大福を食べていたかと思えば、突然立ち上がり部長の威厳をちらつかせる。
いや、ただの思いつきによる行動だと推測するのは容易なことである。

「我々ひまつ部も部員がある程度揃ったわ。でもね… でも決定的に足りないものがあるのよ!」
大福を食べていた指をペロリと舐め、理由不明の熱狂的な素振りを見せつける。
と、思いきや俺を指差しそれは何! と質問してくる始末。
そんなことわかりきっている。部長のおつむの中身だと。だが、大人な俺はそんなことを決して口にするわけもなく――

「足りないものと言えば、活動方針とかそんなんだろう」
先日ティアとロリを抜いた状態で考えた活動方針について意見を述べた。
自分から意見を言うよりも自然な流れである。願ってもないチャンスに俺は迷わず攻め込んだ。

「はぁ? 何言ってんの? 活動方針は決まってるから大丈夫。そこは心配するところじゃないわ」
「「「「えええええええええー」」」」
俺、茄奈、ななた、春樹の前回活動方針会議をしたメンバーのみが不満の声を漏らす。
あの会議は一体何だったというのか。そして、ティアに常識が通じないことの辛さを再度確認する羽目になろうとは。
もはや話を聞かないことだけではなく、話も空気も読めないのか。

「あんたたち! 周りを見てみなさい! 決定的に足りないものがあるのよ! わからないの!」
足を床にドンドン打ちつけながら子犬が餌を待ちかねているようなじれったい声を張り上げる。
当然のことながら全員ティアの言っている言葉どころか、意味がわからない。
俺にはコイツの存在意義すら危うく感じるところではあるが。
何も意見が出ない状況にまたティアはイライラを募らせる。

「もーーーーーーーーーーーーーーーー!!!! これだけ言ってもわからないの! じゃあ教えてあげる!」
そう言ってティアは陽向を指差す。

「えぇっ!?」
不意に指差された陽向も驚きを隠せない。
いや、そもそも陽向に何の問題があるというのか。思い当たる節はあるものの、部活動としてはさほど関係ない要素だと思われる。

「陽向にはない!」
ティアの意味不明な発言。そしてその指は次のメンバーに移る。

「茄奈も… ちょっと足りない! 春樹もない! ロリもない! ななたと蒼空にはあるわけもない! アンタ達にはないんじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!」
俺はティアの指差した順番を目で追っていく。男である俺達は後回しにされ女子部員ばかりを先に指差す。って、指…
俺は自分の導き出した答えに一種の悲しみさえ覚えたような感覚に落ちた。いや、できれば違っていてほしいのだが。

「この部活には…」
皆が固唾を飲む。

「この部活にはおっぱいが足りない!」
必死に訴えるその眼差しは真剣そのものだった。ただ、この凍りついた空気どうしてくれる。

「た、確かに… ギャルゲーでは登場する女の子達はバリエーション豊かじゃからな。プレイ側もほくほくできるというものじゃ」
「そう。ロリの言う通りよ。しかし、現実はそんなに甘くないのよ! そうやすやすと揺らすことなんて!」
「確かに大きい人の方が男に人気があるとこの本にも書いてある」
ロリの発言からティアの痛い発言。挙句の果てには『女の最大の武器を活かすには! 男なんてちょろいものよ』という本を見せつけるように春樹がたたみかける。
いや、その偏った知識を何とかしようぜ。

「お、お兄ちゃんは… その… 大きい方が好きなの…?」
陽向が自分の胸のあたりを手で押さえながらそっと伺ってくる。
やめろ、実の妹が兄に質問するような内容じゃないから。

「とはいえ、はるはまだ初等部だから発育してなくてもまだ大丈夫だ。これから育つのだから!」
珍しく春樹が力強く意見を言う。
語尾にかけて言葉が強調されている気がするが、やはり女の子は気になるものなのだろうか。

作品名:ひまつ部① 作家名:天宮環