ひまつ部①
「とりあえず、この部活について俺が知っていることを伝えておくな。概ね想像は付いていると思うが――」
俺はひまつ部設立までに起きた経緯を皆に伝えた。
最初はティアが1人で儀式と称して魔王復活を試みていたこと。部活としてやればもっと大々的に活動ができること。部室がもらえることなどごく当たり前のことばかりだが、なんとなく俺自身の苦労話を愚痴っている感覚に陥りそうだった。
「蒼空、大変だったな…」
3人の視線がなんだか切ない。やめてくれ、俺をそんな目で見ないでくれ!
と、言いたいところだが、実際そんな目で見られても仕方のない内容でもあるな。
最近の俺の生活は求めている平穏なものとは程遠い気がする。しかも、それに若干慣れてきていたことに自分自身驚きだ。
「と、まぁこんな感じで基本ティアの思いつきが始まりだ。多分アイツは暇つぶしをするための部活としか考えていない。これじゃぁ部活として存在していてもいいのか危ういところだ。多分ロリがいる間は部として残ることができると思うが、本当にそれでいいのか? と、俺は思うんだ!」
「蒼空が珍しく熱いなぁ。暑苦しい…」
「さすがですお兄ちゃん! 僕も一生懸命お手伝いするよ!」
春樹のトゲある言葉が突き刺さった気がするが、黄色い声援だと思って頑張ろう。
その辛い視線を抱擁するかのように、もっと高貴な視線を注ぐななた。
お前は本当にいい子だ。そのまま変わりなく成長するんだぞ。
「確かに暇つぶしを行う部活です、なんて外部には公表できないものな。名目だけでもしっかりしたものを用意しておくのが良いんじゃないか?」
「しっかりしたもの、か」
茄奈の提案に一同考え込む。確かにそうだ。部活紹介なんかで我がひまつ部は暇つぶしを全力でサポートします! なんて言えないよな。約2名を除いて。
「こんなのどうかな」
ハイ、と手を挙げる春樹。なんともその仕草が年相応に見えて微笑ましい。
いや、むしろ年相応に見えたのが久々な気がする。
「やるやらないは別として、ボランティア活動を通して地域住民のお手伝いや各種イベントに協力するってのはどうかな。非営利団体みたいな感じだけれど、印象は悪くないと思うよ」
「はる。相変わらずませているなぁ。でもいい考えだと思うぞ。蒼空はどうだ?」
「あぁ、俺もそれはいい考えだと思う。仮にその活動を通じて地域に貢献できればなおいいかもな。部活としての資質も上がるだろうし。ただ…」
春樹の大人びた考えに最年長である俺と茄奈はうんうんと頷く。そんな俺を眺めていたななたは同じく首を縦に振っている。
しかし、もう少し小学生らしい考えを持っていてくれてもいいのだが。なんとなく春樹の成長した姿に不安も感じる気がする。
ここまで考えてなんだが、大きな問題もある。
「さて、俺達の意見はだいたい似たりよったりでまとまりそうなんだが…」
「あぁ、問題はティアだろう。アイツが自分のためにならないようなボランティアという行為にどう反応するか、だな」
全員抱えている不安は同じなようだ。つーか、部長が一番部活の不安要素になっているってどうなんだよ…
「で、本題に入ろうか」
茄奈が神妙な表情でテーブルに両肘を突く。
一同がゴクリと固唾を飲む。
「で、この部活は何をするんだ?」
結局はふりだしから前に進んではいないのだ。あくまでも名目を考えただけで、実際に活動する内容というのは相変わらず不明瞭なまま。俺も春樹もそれをしっかりと説明できないでいる。
「そこですよね…」
春樹がう〜ん、と頭を抱え込む。
こればかりは俺達が考えても仕方ないような気もするが。
「まぁ、この問題はティアがいるときにでももう一度話しあうとしよう。そろそろバイトの時間だから私はこれで」
「もうそんな時間か。じゃぁ、今日は終わるとするか」
いつの間にか時計の針は5と12をさしている。日も暮れ始めた春の夕暮れ。活動方針会議は翌日へと持ちこされる形で本日は終了となった。
来る決戦の日。いや、ただの翌日だが。
今後の活動方針を考えるべく、そして部長としてしっかり務めてもらうべくティアにはなんとか部長らしい振る舞いをしてほしいと願った、そんな放課後。
「いやあああああ! 何これ超可愛い!」
「だろう! ロリもびっくりしたぞ! はやくティアに見せたくてのう!」
部室の入り口に立つ俺。中へ入る前から既に和気あいあいとした声が聞こえてくる。
『あっ あああああああっ お兄ちゃんらめえええっ もうお兄ちゃんのばかぁっ さとみのぉ、さとみのぉぉぉ **以下自主規制**』
部室に入ると同時に幼女と思わしき声で卑猥なセリフが大音量で流れる。
大画面に映し出される可愛らしい女の子は圧倒的な肌面積を誇っており、どう考えてもこの部室ではプレイ条件を満たしている者はいるとは思えない。
「てぇ! お前らなにやっとんのじゃー!」
ティアとロリは昨日買いに行った新作のゲームを大画面でプレイしていたのだ。
ピンク色の髪の毛をした幼女が制服半分肌半分の姿が描かれたパッケージ。
『わたしだけのお兄ちゃん☆〜いけないとわかっても…〜』と書かれていた。
しっかりと18歳未満禁止のステッカーも貼られている。
その画面に映っている幼女が陽向に似ているような気がしたのは多分偶然だ。
気の所為だと思いたい。俺、ちょっと疲れてるのかもな…
結局、ひまつ部の活動方針会議などできるはずもなく、今日も相変わらずな部活動となった。