交差する橙
"第一章-パズルのピースは夢の中-"
「僕は…、莉奈ちゃんの事が好き…だ。」
僕は勇気を振り絞って、言葉を口にした。出た言葉は思った以上に震えていた。笑われてしまうかなと思ったけれど、彼女は僕の方をじっと見ていた。目には力が込められていて、真剣なオーラが伝わってくる。いつもとは違う彼女の雰囲気に気押されしてしまい、
「なんて…ね」なんて言ってしまいそうになってしまったけれど、このままなんていれるはずがない。もう後には引けないんだから。
夕方部の部室。他の人はいない。僕ら二人だけ。教室のほぼ真ん中で、僕らは向かい合っていた。日がだいぶ傾き始めて、教室をほんのりとオレンジ色に染め上げていく。そして僕たちの影はどんどん伸びていった。その風景はとてもロマンチックで、どこか切なくなってくる。どのくらいの時間が過ぎたんだろう?1分が1時間にも感じてしまう。ああ、これが相対性理論なんだろう。
「…ごめんね。変なこと言って。今のは…忘れて。」
―負けていた。
次第に暗くなっていき、影が伸びていく。そして、彼女の真剣な眼差し。僕の心の中は不安の方が大きくなっていった。それでも少しは頑張っていたのだけれど、空気の重さに耐えられなくなってしまった。そう言って目を逸らした。彼女はどんな表情をしているのだろう。幻滅していることは間違いないだろう。呼び止めておいて、一方的に告白して、空気に耐えられなくなって自分で自分の行為を否定してしまった。
―最低だな。
僕は振り返って、後ろから2列目の机に置いておいた鞄に手をかけ、一言、「…ごめん。それじゃ。」と振り向かず呟いて、教室後ろの扉を目指した。足取りは重い。夕方部に所属している以上、彼女と会うことは避けられない。次に会った時にどんな顔で会えばいいのだろうか…。彼女のことだから、普段どおりに接してくれそうな気はするけれど…。
「…私も…。」
ちょうど廊下に出ようとした時だった。教室の中から声が聞こえた。届くか届かないか微妙なくらいの小さな声。慌てて、僕は振り返った。教室はずいぶんと暗くなっている。逆光も加わって、彼女の表情は分からない。輪郭だけが浮かび上がっていた。
「私も…好きだよ…。」
すぐには言った意味が分からなかった。彼女の表情は逆光で分からない。もしかしたら、ドッキリなのかもとすら思えた。心臓は大きく高鳴っている。このまま声を出しても思った通りに出せなくて彼女には届かないだろう。一歩、また一歩と彼女のもとに歩みを運ぶ。
先程の立ち位置よりは少し離れている。日はずいぶん傾き、奥の窓からも最後の力を振り絞っているかの如く強烈にオレンジ色を発している。目線の先には彼女のローファーが見える。彼女は何も言わず、立っている。
僕は、顔を上げた。目線が、足元から、すらっとした、足、ウエスト、胸、首と視線がスライドしていく…。そして、口元、鼻、目と目線が上がっていく。そして、彼女の顔を捉える。薄い化粧を施した整った顔。その彼女の顔は、目を細めて、優しく微笑んでいた。
そんな彼女を見た僕の世界は優しく崩壊しフェードアウトしていった―