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被虐的サディスティック

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 何故か『中学』という単語に彼は反応し、笑みを零した。意外と笑うと幼く見える。
 そんなことを訊いてどうするのかさっぱり分からない私をよそに「やっぱ都市伝説じゃねえんだなぁ! 幼なじみってやつは。はっはっは」等と笑いながら彼は前を向いて再び歩き出した。
「……そんなことを訊いて、どうするんですか」
 私は彼に振り回されたのが気にくわなかったので、質問を返すことにした。
「別にどうもしないさ。ただ――あんた……ケイに惚れてるだろ?」
 彼は立ち止まり、顔だけを振り向かせて私の目を見て訊いた。
 私は思わず動揺した。そんなにもあからさまな行為だっただろうか。それとも、たったこの数分のやりとりで、彼には私の気持ちが分かってしまったのだろうか。
「卒論のため〜だなんて、嘘だろ? あいつに会うためだけにわざわざウチの大学に上がり込んだ」
 返す言葉がなかった。下唇を噛み、狼狽えることしか出来なかった。
「それで……関係も上手くいっていない。むしろ、今日会いにきたことで、より一層複雑な心境になってしまった――。違うか?」
「な、なんで……?」
 考える間もなく、私はとっさに口に出してしまった。これではバレバレもいいところである。
「…………」
 彼は答えずに、再び前を向いて足を進めた。校舎の出口に差し掛かったあたりで、彼はタバコを取り出し、口に銜えた。
 私は、頭が真っ白のまま、ふらふらと彼の後についていった。
「あ、あの……」
 日もとうに暮れて、大学の照明があたりを照らすキャンパスで、私は彼に尋ねた。
「あなた、も、もしかし――」
「俺はあいつとはついてる教授が違うんだ。あんたにとっちゃ、気の毒だがね」
「そう、ですか……」
「週末は、暇か?」
 彼の吸うタバコの副流煙が、風にゆらゆらと揺れる。その揺れによって、ツンとする焦げのようなニオイが私の鼻を掠める。
「はい、一応……」
「なら、またウチに来い。そン時は、守衛に俺の名前を言って入れ」
「あの、そういえば、あなたの名前は……」
「あぁ、そうか。言ってなかったな。俺は――」

 功田 玲(こうだ れい)だ――。
 
 彼は自分の名前を告げると、私の名前を聞かずに別な校舎の中へと入っていってしまった。
 私は、彼の眼差しが、ずっと脳裏に焼き付いたまま、家に帰っていった。

作品名:被虐的サディスティック 作家名:みこと