被虐的サディスティック
そして都合の良いことに、希良君は私のことを嫌っている。少なくとも好意的な視線は完全に見受けられない。出席の時に名前を呼んでも顔を上げないし、偶々目が合うとすぐさま逸らすか、思い切り細めた瞳で睨みつけてくる。恐らくまだ学生である実習生に、しどろもどろで教科書通りな授業を受けなければならない、ということが、彼のプライドに反するのだろう。
――でも、それで良い。
見たくなくても視界に入ってくる人間が教室の中に二人もいれば、彼はさらに苛立つだろう。
放課後――。ホームルームを終え、ばらばらと生徒が帰っていく中、私は鞄を肩に掛けて教室の外へと足を踏み出そうとする佳織ちゃんに向かって、
「乃木坂さん。ちょっとお話があるので、面談室に来てもらってもいい?」
と、声を掛けた。周りの生徒は聞こえないでそのまま廊下へと出て行く者。その光景をちらっと見ただけですぐに目を逸らす者。そして――横目で鋭く睨みつける希良くんの姿があった。
彼女は開きっぱなしのケータイを片手で閉じ、はい、分かりましたと答えて足を止めた。
千住先生に視線を送ると、「任せたよ」と笑顔で合図した。
――部外者だからこそ、出来ることがあるんだ。
私が教室から廊下へと出ると、私の背中を追うようにとぼとぼとついていった。死角から廊下にいるクラスメイト達の不安げな視線が私と佳織ちゃんに注がれるのを感じた。
作品名:被虐的サディスティック 作家名:みこと