インパラの涙
Episode.2
透と母親が団地から引っ越したのはそれから僅か1ヶ月後のことだった。
母親の再婚相手の家で同居することになって団地を引き払ったのだ。
高校は引越し先の県の名門私立高校に編入したらしい。
お金があるだけじゃ入れない有名高校だと,美紀の母親は溜息をついた。
あの夜から何となく美紀は透に会うのが気恥ずかしくて無意識に避けていた。
透もその気持ちを知ってか知らずか、鉢合わせしないようにしているみたいだった。
そのまま会わず仕舞で彼は引っ越していった。
美紀は何故だか怒りも悲しみも沸いてこなかった。
必ずまた逢えるという不思議な確信があったし、透の気持ちも手に取るように分かっていた。
引っ越してからたった二日目に美紀は透からの手紙を受け取った。
美紀へ
何となく合わす顔がなくて別れも言わずに引っ越してしまったことを謝ります。
僕は幼稚で弱みを見られて恥ずかしくなり君に逢うのが気まずくなってしまいました。
あの夜のことは同情でしてくれたことは分かってます。
でも嬉しかったです。
ありがとう。
僕が一人で生きていけるようになったらまた一緒に走って下さい。
山崎(旧姓 香坂)透より
それから6年経って美紀は23才になった。
そのまま地元で就職してからは化粧も覚え、そこそこOLらしく見える。
透の噂は全く聞かなくなった。
時々近況を知らせる手紙が来ていたが、この1年くらいぱったりと止んだ。
だが美紀は不安はなかった。
むしろ再会の時が近づいているのを実感した。
そして1週間前。
久々に透から葉書が来た。
白い官製はがきに一言だけこう書かれていた。
美紀へ
期は熟した。12時到着の新幹線で帰る。
美紀は葉書を握り締めた。