インパラの涙
Episode.3
今、待ち焦がれた時が来ようとしている。
新幹線は美紀の目の前で止まった。
出口が開き中から人の波が先を争うように流れ出る。
美紀は流れに押されて立ちつくした。
人の波が改札口の向こうに流れた後、最後尾の車両から長身の男性が大きなリュックサックを肩に担いでゆっくり歩いて来た。
黒いTシャツにジーパンが長身に似合っている。
美紀はそのまま動けなくなった。
見覚えのある銀縁の眼鏡を掛けた顔。
ただあの頃と違うのは、病的に白かった顔が日に焼けて健康的な褐色になっていた。
その顔が美紀を見つけると屈託なく笑った。
美紀の頬の涙がこぼれた。
6年ぶりに逢う透が美紀の目の前に立つ。
「久しぶり。」
「・・・うん。」
「オレ、就職決まって一人暮らし始めたんだ。」
「・・・うん。」
「親元離れたし、もう自分で人生決められるようになった。」
そういった透の顔は自信に溢れていた。
美紀は涙もぬぐわず眩しそうに見上げる。
「自由になったんだね。」
「逃げ切った感はあるね。インパラだけに。」
二人は笑い出した。
「お前はまだ走ってる?」
「インパラが来るのを執念深く待ってた。ハイエナだけにね。」
美紀は上目に透を睨む。
透は優しく笑った。
リュックを下ろすと美紀に右手を差し出し、言った。
「これからずっとオレと一緒に走って下さい。」