BBB(Beast between books)
俺がしまったと思ったのとほぼ同時だった、背後から再び襲い来る威圧(プレッシャー)、余りに突然のことで俺は何も出来ず、重い一撃をもろに、笑ってしまうほどもろに喰らってしまった、妙な浮遊感と共に次に来たのは激しく地面に叩きつけられたために来る、鋭い痛み、視界が何度も回り、おさまった後でも俺の視界はグルグル回っている。
「あー、くそっ、まさかこんなへまするなんてな・・・」
一匹捕まえたからって警戒を解くべきではなかった、我ら、つまりもう一匹いたと言う事だ、唸り声が段々と徐々に近づいてくるのがわかる、俺は視線を動かし暗闇へと視線を移す、闇の中で浮き出る灰色の咎人、それは先ほどの咎人(タイプ・フェンリル)より二周りほどデカイ、つまりはこっちが本命か。
「キヲヌイタナ、バカナニンゲンヨ」
「お前の言うとおりだよ、返す言葉も無いね」
何とか動く体に鞭入れて、俺は立ち上がる、骨は折れてないみたいだ、咄嗟に体丸めたのが功を制したらしい。
けれど、骨は折れていないが足首を両方挫いたらしい、幸い中の不幸と言ったところか、つまりは目の前に立つ咎人の攻撃を、俺は避けると事が非常に困難であると言うこと。
今から本を出そうにもそんな動き見せたら、奴は待ってくれないだろうし・・・一か八かで避けてみるか。
「サテ、キサマノヨクヲ、コロシタアトニクラウトシヨウ」
咎人が俺に向かって前足を振り上げる、激痛を申告する足を無理やり動かし何とか横に飛ぼうとするが。
ダメだった、どうやら足首の痛みでわからなかったようで、足全体がもう既に限界らしい。
あー、終わったな、死亡フラグだ。
死ぬ間際に恐怖を感じるというが、どうだか・・・既に何人も、前に人だった奴を殺したから、殺される気持ちをわかり始めていたのかも知れない。
何と言うか、別に何も感じない、怖い、嫌だ、助けて? 何にも出てこない。
ただ俺と言う存在が消えて、咎人になるだけ、と言うことだ。
振り下ろされる前足を眺めながら俺は、傍観者(他の人)のような感想を持った。
「グォオオオ!!!」
ボーっとしていた俺の耳に突如恐ろしい呻き声が聞こえ、俺は肩を震わせる、なんだ? 何かあったのか?
そういえば、俺死んだのか? いや、前足が俺を叩き潰した形跡もないし、全身に感じるこの痛みから推測すると俺は生きてるのだろう。
「作戦は消滅、やれ」
声が暗闇に乗って聞こえる、辺りを見回すが何もいない、しかし目の前にいるはずの咎人がいつの間にか苦しんで俺の傍から数歩後さずっているのがわかる。
刹那、俺の横を恐ろしい電撃が走り、それが咎人を襲う。奴の体中に幾重にも電流が流れ、咎人は苦しみだした。
栞獣か・・・と言うことは他に誰かいる?
しかし、周りには誰もいない、うーん、まあとりあえず加勢は・・・いらないな。
電撃は咎人の行動を束縛するように攻撃している、動こうとしている方向に先回りをして攻撃、咎人がぐらつき倒れそうになるところに再び攻撃、まるで弄ぶかのような陰湿な攻撃を繰り返す。
見ていて余りいい気分ではないが、戦い方は人それぞれ、別に文句を言うつもりは無い、ただ好きではない。
暫くそれを見ていると、咎人の動きが鈍くなり始めている、そろそろか。
「終わらせろ、飽きた」
声が聞こえたかと思うと、電撃は宙へと登り暗闇を照らし、大きな雷を落とした。
計り知れないほどの電流が地面に流れる、俺の方に電撃は来なくて安心した。
咎人は立ったままの格好で黒くなっていた、時折電流が糸を引いている。
すると、黒ずんだ咎人から白い影が現れる、咎人から表れたのはフェンリル、先ほど俺が捕らえたフェンリルよりやはり大きい。
「マサカ、ナカマガイタトハナ」
恨めしそうにフェンリルが俺にそう言う、いや知らないんだけど。
「まあ、そう言う事だ」
「ソウカ・・・ナラバテイコウハヤメヨウ、オレヲホカクスルノダロウ?」
フェンリルはそう言うと体の力を抜いた、なかなか理解が宜しい奇獣で良かった、誰が助けてきてくれたかは知らないが、会えたらお礼をしておこうか。
「じゃあ、こっちに―――」
俺が栞を取り出してフェンリルに語りかけたときであった、地面から電撃が迸ったかと思うと、無抵抗な奇獣に鋭い電撃を喰らわせる。
「なっ!」
「グゥァオオオオ!!」
俺は目を見開いて、フェンリルを見つめた、そんな、嘘だろ? 無抵抗な奇獣を躊躇い無く・・・。
電撃を喰らったフェンリルの体は、自然と綻び始める、これが奇獣を捕獲以外に消す方法、一定以上の攻撃をすれば奇獣は消えてなくなる、もともと現象であるため、何かの衝撃を加えれば消えてなくなる。
「イヤダ・・・キエル・・・ノ・・・ハイヤ、ダ」
フェンリルはそれだけ言うと空気に溶けるように消えた、残ったのは鼻を突く、肉のこげた匂いだけ、俺は辺りをもう一度見回した、やはり誰かがいる気配はない、俺は痛む足を引きずりながら、背を向ける。
「なぁ、どこの誰だかわかんねーけど、俺、お前嫌いかも知れねー」
俺はそれだけ言うと、帰路に着いた、いったいあれは誰だったのか、それはわからなかったが。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
次の日。
「うっつ~、足いてぇ!」
ベッドから起きた俺の第一声はそれであった、いや、マジ痛いんだって、尋常じゃないから、両足がいっぺんに使い物にならなくなるのなんて初めてだぞ、どうやって帰ったかもほとんど覚えてないし。
「幸にぃ~! もう朝だよ~」
それと同時に俺の家の扉がけたたましく叩かれる、あ~うるせぇ。
「雫(しずく)、少し静かにしてくれよ、足に響く」
「むりぃ、幸にぃが起きるまで叩き続ける」
「起きてるだろうがっ、嫌がらせか! 嫌がらせなのか!?」
「陰湿な兄苛めだヨン」
「クソ野郎」
ズキズキと痛む足を引きずりながら俺は扉へと向かう、少し雫には説教をしなければいけないようだ、と俺は思い、少し重苦しい表情で扉を開けたのだが。
「おまっ! 何という格好を・・・!」
どうやら、コイツには一緒の屋根の下で暮らすべき者への一般常識を最初に教えてやったほうが良さそうだ、何でって・・・人の部屋の前で下着姿で待ち構えている女の子がいたら、読者様達はどうなさいますか・・・出来の悪いホラー映画より心臓に悪い。
「オハヨー、幸にぃ~!」
「っ!」
急に雫は俺のみぞおちに頭を食い込ませて突っ込んできた、いくら鍛えてる俺でも、無邪気にそれも無抵抗な場所への不意打ちタックルはこたえる。
それに俺の脚は自分の体重を支えているだけで精一杯だ、無論、雫の体重を支えられるはずも無く、俺は不安定なまま、雫と共にベッドに倒れこむ。
「うぐ・・・くそっ。朝から散々だ、おい雫、さっさと俺から・・・えっと、何でそんなギラギラした目で俺を見るのかな? 涎も垂れていますよ?」
「フッフッフ、幸にぃ、隙を見せたね、私を抱いてベッドに倒れるとは・・・」
「いやちょっと待て! 俺は昨日の仕事でだなぁ」
「戯言は無用!」
「ぎゃぁああああ!」
―――暫くお待ちください―――
作品名:BBB(Beast between books) 作家名:髪様