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めいでんさんぶる 1.前奏曲メイド研修生茉莉

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「わ、本当に浴場ですね!」
服を脱ぐ前にお風呂を覗いてみると一般的な家庭のお風呂の十倍位の大きさで洗い場が三つある。
やはりお金持ちの家だからか黒を基調とした大理石造りだった。
洗い場の数の割に浴槽は大きいから浸かるだけならここの使用人は全員入れるだろう。
「茉莉ちゃん、いつまで見てるの。見るのはお風呂入りながらでもできるでしょ」
とめさんはリボンタイを解いて紺のワンピースのジッパーに手をかけながら言った。
「はーい」
なんだか気分が良い。学校は寮生活でもちろん大浴場があったけどいつでも混んでいてゆっくりなんて出来なかったから小さくてもいいから一人で入れるお風呂が欲しいとよく願ったものだ。
それが今ここに。とめさんもいるけど良い人だしこの広さで二人なんてたいしたことはない。
服を脱いで三つ編みのおさげを解いてから浴場へ向かう。
洗い場には海老のおさげを解いたとめさんが鼻歌を歌いながら腕を洗っていた。
「とめさんはシャンプーとかボディーソープ持ってきてましたよね」
別に洗い場にシャンプーは置いてある。しかも良い物だ。
「周りの人が自分と同じ匂いがするのってなんか落ち着かなくてね」
「なんか犬や猫みたいですね。自分の匂いが消えちゃうと落ち着かないって言いますし」
「かもねー。それに他の子の匂いとか好きよ。ここじゃあまり拝めないけど、今日なんか茉莉ちゃんが来たから新しい匂いを……。それも今日でおしまいだから残念だなぁ」
「……冗談、ですよね?」
とめさんが匂いフェチって。
「さあ? どうかなあ?」
とめさんは時々分からない。
きっと三井さんだってとめさんの事を分からない、って思うときあると思う。

体を洗って髪を洗い終わってから浴槽に浸かる。
「ふぅー……」
ちょっぴり熱いお湯は今日の疲れを一気に落としてくれる。
やっぱりお湯に浸かるっていう文化のある日本に生まれて良かったよ。
お隣にはとめさんが浴槽に背中を預けて浴槽の縁に腕をかけている。
よく見るととめさんって以外と胸がある。……というかいわゆる巨乳の部類に属してる。
「ん、どうしたの?」
「あ、いえ、とめさん色白で良いですね」
「そう? でももっと白い子ここにいるよ。というか私は白さよりも肌のハリの方が気になるわよ。茉莉ちゃんなんて若いからピッチピチだよね。何歳だっけ?」
「17です」
「ほらねー、まさに真っ盛りだもん。私なんか22だもん、もう下り坂だし」
「そんな事ないですよ、とめさん。それに下り坂ってまだまだじゃないですか!」
「17歳に慰められても余計に落ち込むなぁー」
そのままとめさんはズズズズ、とお湯に浸かっていって頭が消えてしまった。
「だ、大丈夫ですか!? とめさん!」
私が声をかけるととめさんはすーっと上ってきて、
「さっきの続き。で、何やっても駄目な巴だったけど負けん気だけは人一倍強くてね。私なんかの優等生や先輩とか先生にコツなんかを聞いては徹夜で勉強してたみたい」
「そうなんだ……」
三井さんは元から出来る人なんて思っていたけれどそんな事なくて努力家だったんだ。
私は自分を恥じてしまった。なんだか三井さんの努力を否定したみたいで。本当はそんなに努力できる人の方がすごいのに。
「それに生真面目だから私の言った出鱈目もたくさん信じたよ。眼鏡をかけたら物覚えが良くなる、って言ったら眼鏡をかけだしたし夕飯のデザートを私にあげると勉強がはかどる、って言ったらいつもデザートくれたし」
「それはひどいです……」
「ま、それの効果はあったのか分からないけど巴はどんどん優秀になっていってさ。卒業までにはトップクラスになってたね。それでこの仕事に就いてからはさらに磨きがかかって私なんかすぐに追い抜いたよ。私の出鱈目も信じなくなったし」
とめさんの出鱈目を信じなくなってそれは良かったと思う。
私もとめさんの言った事、冗談なのか冗談じゃないのか分からないし。もしかしたら今この話だって……、という事もある。
私はとめさんの言っている事を嘘か本当か見極められるようになったら一人前、と勝手に自分の中で設定しておく事にした。
「茉莉ちゃん、今失礼な事考えてたでしょ?」
「ぇ、全然!?」
「嘘をつくなぁっ!」
静かに話していたとめさんは急にふざけた口調で私に襲いかかる。
「……ぃ、キャーッ!!」

……とめさんにお嫁に行けない身体にされちゃう所だった。
つい勢いでとめさんをビンタをした上に足蹴りしちゃったけどとめさんは笑って許してくれた。
「茉莉ちゃんは意外にちゃんとしてるよね。巴はぼうっとしてる事があるって言ってたけど」
「……三井さんの言っていた事はとめさんの思ってる事とは違うと思います」
下着の上からネグリジェを身に付ける。
学校は校則でもないのに何故だかネグリジェの人が多くてかくいう私もその一人で今回の研修は洋館だから自然かなってそのまま持ってきたのだ。
「お、そのネグリジェ可愛いねー。もしかして学校で使ってたやつ?」
「はい。とめさんのも学校で使ってた物ですか?」
とめさんもネグリジェ。若干桃色がかかっていて赤毛のとめさんに似合っている。
「そうだよ。福岡校は校則でネグリジェじゃないと駄目でね。今までスウェット着て寝てたから入学当初はえらい抵抗感じたけど今じゃネグリジェじゃないと抵抗感じるね。いや習慣って恐ろしい」
頭をボリボリと掻きながらとめさんは笑う。
「同じ学校って事は巴さんもネグリジェだったんですか?」
「そうなんだけど巴はどうしてもネグリジェが嫌らしくてね。中等部まで先生に内緒でパジャマ着て夜は部屋から出なかったんだよ。でも偶然夜にトイレ行ったら見つかっちゃってね。それからは仕方がなく。で、習慣付いて今もネグリジェ」
昔から頑固そうな所は変わらないんだ。
「あのさ、こうも巴の昔の事たくさん話してばれたら後が怖いからしばらくはお休みね」
とめさんは苦笑いで答えた。
「今更だけど巴昔の事話すと物凄い嫌がるし」
そりゃ、とめさんにあんなに面白おかしく話されたらたまらないものね。
「分かりました」

「結構広いですよね。個室」
浴場を後にして私は個室にいた。
お風呂に行く前はなかったのに帰ってきた時には扉のネームプレートに「久隅」と書かれていて少し驚いた。三井さんも律儀な人だ。
「ま、人数がたくさんいた頃は相部屋として使ってたみたいだしね」
とめさんは寝る前まで少し話(三井さんは早く寝ろ、と言っていたけど)でもしようかとドレッサーの椅子に座っている。
「でも、……どうしてベッドがこんなにぐちゃぐちゃに?」
さっきまで誰かが寝ていたみたいな跡がある。三井さんに限ってベッドが乱れているのに気付かないはずがないから三井さんが荷物を置いておいてくれた後にこうなった、って事だよね?
「あいつの仕業だな」
「あいつ?」
「ぁ、変な男とかじゃないから大丈夫だよ。子供の仕業だから許してやって」
御主人様のご子息かな?
「こういう時、鍵が付いていないってのは困るねぇ」
乱れたベッドをベッドメイクしてくれるとめさん。
使用人の部屋には鍵はついていない。巴さんの部屋には鍵がついているみたいだけれど。よくよく考えれば使用人の部屋に鍵は必要ないかな。