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めいでんさんぶる 1.前奏曲メイド研修生茉莉

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じゃあ、一人でこの厨房の機材をフルに使いながら料理している超人はとめさん!?
それにまたもや上級使用人。
厨房は隔離された部署だからハウスキーパーの権限が及ばない。それにコックは厨房の最上級職位、つまりは厨房のハウスキーパー的な職位だから三井さんとは位置的には同じ、って事。亀山さんて結構すごい人なんだ。
「あ、思い出した。巴から連絡事項がいくつかあるんだった」
亀山さんは箸を置いてごちそうさまと軽く手を合わせると、
「まずは茉莉ちゃんのこれからの仕事について。茉莉ちゃんの役職はハウスメイド、と巴が夕食作りの力を認めたらしくてキッチンメイドの兼業になったよ」
補足しておくとハウスメイドというのは特に専門職を持たないけど基本的になんでもやるポピュラーな役職。
キッチンメイドはその名の通り厨房の配属でコックの補佐的な仕事。
そして私、めでたく直属の上司が三井さんととめさんになるみたいです。
「一週間か。巴の機嫌を損ねないように頑張りなさいよー」
「あ、はい、ハウスメイドとキッチンメイド……ってつまりトゥイーニーじゃないですか!」
「まあ、そうだけど」
トゥイーニーはハウスメイドとキッチンメイドを掛け持ちしているメイドの役職名で私が学校で教えてもらった限りではかなりの激務、って聞いたけど。
三井さん、鬼じゃないんだから……。
落ち込んだ私を見かねたとめさんは、
「まあ、それだけ期待されてるって事だし。それに人数も少ないから皆掛け持ちしてるようなもんだよ。はい、どうぞ」
「……ありがとうございます」
とめさんの入れてくれた紅茶に口を付ける。
「……ぁ」
私が気付くととめさんはふふ、と微笑んで、
「これは私からのようこそとよろしくの祝杯。たまたま今日この茶葉を買ったから」
とめさんが入れてくれたのはジャスミンティー。
私の名前の"茉莉"ってジャスミンという花の種類なんだよね。とめさん、なかなか粋な事するんだな。私もこんな格好良くて頼りなる大人になれたらいいな、って思った。

それからは私達の食べ終わった食器を洗って、とめさんの明日の朝食のお手伝いをして、御主人様の夕食が終わったので洗い物をして厨房周りの廊下を掃除をしているところに三井さんがやってきた。
「お疲れさまです。三井さんの伝言、とめさんから聞きました」
「期待しているわよ。ぼうっとしてさえなければ貴女は優秀みたいだし」
「……尽力致します。ところで三井さんは今からご飯ですか?」
「そうよ。久隅さんは今日の所はもう上がって良いわよ」
「私も上がって良いかな?」
話し声が聞こえてきたからか厨房からとめさんが海老のおさげを揺らして出てきた。
「とめも上がって良いわよ。後、久隅さんの部屋はとめの隣の部屋だから案内してあげて頂戴。荷物はもう部屋に運んでおいたから」
「分かった。先にお風呂ももらうよ」
「お風呂掃除は誰がやるんですか? もし良ければ私が……」
「久隅さん、貴女はもうお休みなさい。慣れていない環境で無理すると体調を崩すわよ」
「そうだぞ。給仕する立場が体調崩して給仕されちゃ本末転倒よ」
二人の上司にこうも言われちゃ仕方がない。もっともだし。ここは大人しく引き下がることにした。
「お風呂掃除は羅門と聖良もまだお風呂入っていないだろうからその二人に任せるか。それとも巴が最後?」
「たぶんわたくしが最後になるんじゃないかしら。まだまだ仕事が残っているもの」
「相変わらず真面目だねぇ」
「とめが不真面目過ぎるのではなくて?」
とめさんのへらへら笑いにもきりりとした表情を崩さずに言う三井さん。
「じゃあお疲れ」
「お疲れさまです」
とめさんの後に続いて私は礼をしてからとめさんの後に続く。
「久隅さん」
「ぁ、はい。まだ何かご用でしょうか?」
「言っておくけどとめにここの地図をもらって徹夜で全ての部屋を覚えるなんてくれぐれもしないように。書庫へ行っても地図はないわよ。後、タクシー代をわたくしの部屋に置いていこうとしても無駄よ。鍵がかけてあるわ」
「……そんな事するわけないじゃないですか」
作り笑いで答える。だって三井さんの言った事全て当たっているんだもの。
「そう。ならいいわ」
何故か満足気に三井さんは言うと、さ、早くついていかないととめに置いていかれるわよ、と私を促した。

「まずは部屋を案内するわ。そうでないとお風呂に入っても着替える服がないものね」
「はい。あの、とめさんと三井さんは仲が良いんですか?」
「んー? そう見える?」
うふふ、と含み笑いを浮かべるとめさん。
「お互い名前で呼び合っていたからそうかな、って」
「まあ、巴とは同期だし同じ学校だったから。何かと縁があってね」
「そうなんですか? 三井さんって昔はどんな人だったんですか? やっぱり昔から出来る人だったんですか?」
私が聞くととめさんは今度はクックックと声を押し殺して話し出した。
「私達も朝良の家政女学校に通っててね、福岡校だけどさ。今でさえああ見えるけど学生時代の巴は何やらせてもダメダメで全て私より下。何やらせても出来る人ってあの時は私だったかもね。私、今はコックだけど学校じゃ首席卒業だったんだー」
いぇーい、と両手をピースして言うとめさん。
……あれ、いつの間にかとめさんの自慢話になってない? すごいのには変わりないんだけど。
「はい、ここが茉莉ちゃんの部屋。良かったね、普通トゥイーニーじゃ相部屋だろうけどウチは部屋余ってるからどんなに格下でも個室もらえるんだー。じゃ、着替え取ってきてね」
そう言うととめさんは隣の部屋に駆け込み、
「お待たせ! さ、入りにいこう!」
と寝間着と風呂桶にバスタオル、シャンプー、リンスなんかを詰めてやってきた。まるで銭湯にでもいくようなアイテムだ。
「……入りにいく、って一緒にですか? とめさん、このお屋敷には温泉でもあるんですか? お風呂と言っても私はてっきりシャワーしかないと思っていたんですけど」
あくまで洋館だからないと思っていたんだけど。よくあるシャワーと猫足のバスタブかな、って。
とめさんはチッチッと指を振ると、
「甘いね、茉莉ちゃん。もちろん御主人のお風呂はバスタブだけど使用人と御主人が一緒のお風呂を使うのは嫌と言う御主人もいるわけだ。そんな訳でこのお屋敷には使用人の為のお風呂があるのだ!」
「えっ!」
使用人だけの為にお風呂作っちゃうんだ。やはりお金持ちは違うな。
「温泉でなければ銭湯みたく広くないけど2、3人位なら一気に入れるよ。大浴場ならぬ小浴場ってやつかな」
ああ、それで一緒に入ろう的な事言ってるのか。
「……ぁ、でもとめさんお風呂位一人で入りたい、なんて事言ってませんでしたっけ?」
「茉莉ちゃん、よくそんな事覚えてるね。私なんかお米炊こうとして今何合洗ってたんだっけ、とかよくなるのに。てかそんな事はいいのよ。私が茉莉ちゃんを気に入った、っていう理由じゃあだめかな?」
「いえ、全然! 気に入ってもらえたなんて本当に嬉しいです。是非、お供させて下さい!」
良かったぁ。三井さんには少しだけ嫌われてるかな、っていうのがあったからとめさんには気に入られたみたいで何より。なんだかとめさんに一生ついていっちゃいそうだよ。