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めいでんさんぶる 1.前奏曲メイド研修生茉莉

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ボウルの中の野菜を全て切り終えてまな板から顔を上げると三井さんが、
「久隅さん、貴女……」
「はい。私がどうかしました?」
「やっぱりあの学校での貴女はちゃんと貴女みたいね」
そう言うと三井さんは自分のボウルを私に見せた。ボウルには何も入っていない、という事で。
つまり、わたくしと同じ時間に作業が終えられたじゃない、という事。
「信じてもらえたみたいで光栄です」

その後、私は三井さんに少し見直されたみたいで三井さんのお手伝いをしながら肉じゃがを作り終える事ができた。
「久隅さん、良かったわ。まだぼうっとしてる時は少しあったけど」
「えっ!? いつですか!?」
「わたくしが別のおかずを作っている間、鍋を見ておいてと頼んだのにおかげで鍋を焦がす所だったじゃない。忘れたとは言わせなくてよ。さてと、そろそろ御主人様が帰ってこれる時間だからわたくしはお出迎えに行くわ。食器洗いを頼むわよ。お皿を割らないようにくれぐれも注意なさい」
三井さんは叱っているのか頼んでいるのか注意しているのか色々まくしたてた後、厨房を出ていってしまった。
きちんと言われた通り洗い物をしよう。まだ食べ終えてもいないのであまり数はないけど、元からあったティーカップや朝食に使ったと思われるお皿もあるので数はそこそこ。……というかなんで朝の洗い物がまだここに? きっとコック一人じゃ忙しいんだ。
しかし疲れたな。
さっきまで夕方だったのに今窓を見たら空には星がたくさん輝いている。そっか、森だから星もよく見えるんだ。
今日はよく眠れそう。私が寝る部屋は星がよく見えるかな。
って寝ちゃだめなんだ。今日の遅れを取り戻す為に徹夜で全ての部屋の場所覚えちゃわないと。あとタクシー代を三井さんに返さなくちゃ。
当然今日の仕事だってまだあるはず。ご主人様の夕食が終わったら洗い物しなくちゃいけないし。お風呂は一番最後に、そしてお風呂お掃除。それくらいかな? 後から三井さんにやった方が良い事聞いて置かなくちゃ。
━━と考えていると突然視界が真っ暗に包まれる。
「わっ!」
足元で不快なガラスの破片が踊る音がした。
驚いて手に持っていたティーカップが洗剤のせいもあって手から滑り落ちてしまっらしい。
「だーれだ、って……あーらま」
おそらく目に当てられているひんやりしたものは誰かの手でこの声の持ち主に違いないだろう。
「わっ、割れちゃった!? ちょっと放してくださいっ!」
私が言うとぱっと視界が元に戻った、けれど。
「ああ、やっちゃった……」
あれだけ三井さんに気をつけろ、と注意されたのに。
無惨にもティーカップはカップとして機能しない程度に割れてしまっていた。
せっかく信用を少し取り戻せたのに、これじゃ元通りだよ……。
「やっちゃったな。しかもそれ高いやつだね」
メイド服を着ているこの人はきっとこのお屋敷のメイドさんだ。
「……どど、どうしよう。三井さんに怒られる!」
「とりあえず落ち着いて、危ないから掃除しよう」
親切な事にその人は箒とちりとりでさっさと破片を集めてしまった。
「怪我はない?」
「なんとか。私よりもカップです! 高いんですか!?」
「割とね」
「今度こそ出ていけって言われる……」
…………というかよく考えたら、
「親切な人、って思いましたけどあなたが私を脅かしたんですよね!? あなたのせいで私、学校に戻らないといけないかもしれないんですよ!? どうしてくれるんですか!」
私が言うと目の前の親切と思いきや実の原因であるこの人は、
「いやー、ゴメンゴメン。でも怪我がなくて良かったよ」
「……そんな風にヘラヘラ謝られたって割れた物は元に戻る訳ないです」
「えらくツンツンしてるのね。研修生ちゃんは」
「私、さっき三井さんに幻滅されたんです。それでもやっと見直してもらえたのに」
「ああ、そういう事か。それは困ったねぇ」
やはり他人事のように言ってからう〜ん、腕組みしながら唸っていると思えば、
「じゃあ私の後に付いておいで」
にこやかに言うのだった。

言われた通りについていくと屋敷の裏側にある洗濯物が干せそうな位の広さスぺースのある小庭に出てきた。でも何故?
「庭に来てどうするんです?」
「この辺りでいいかな」
私の問いには答えず辺りを見回し、そして、
「これで」
懐から出した小さいシャベルを手にとって私ににこりと笑うと庭の芝ではない土の地面を掘り始めた。。
「もしかして……埋めるんですか、この破片を」
「よく気が付いたね。証拠隠滅♪」
そして破片を埋めてから土をかけて表面を慣らす。
「これで大丈夫でしょ、良かったね、メイド長に怒られなくて済むよ」
月の光に微笑む顔が浮き出される。
「埋める、ってあのカップは何処に行ったのか、って三井さんなら気付きません?」
「大丈夫。巴もそこまで厨房の内情は知らないし」
本当に大丈夫だろうか?
本人はやっぱり他人事だからか特に心配するような素振りをまったく感じさせず、
「あ、私は亀山とめ(かめやま とめ)。よろしくね、新入りちゃん」
この亀山さんとやらは少し背の高い女性で年は三井さんと同じ位か。三井さんととっつきにくさはぜんぜん違う。大人っぽい顔つきでよく見たら色白で赤みの入った髪色に後ろに下がる大きい海老のようなおさげが特徴的な人だ。
「久隅茉莉です。よろしくお願いします」
「さて、早い所戻らないと怪しいと思われるから。肉じゃが作ってくれたんでしょ? 私達もご飯にしようか」

肉じゃが、もとい夕食は御主人様に作ったものだと思っていたけれどここの使用人は数が少ないから少し多めに作って私達の夕飯にもなるらしい。さすがに御主人様と一緒のテーブルはまずいから厨房でとるけど。
どおりでお客様がいらしている訳でもないのに一人では食べきれないような量を作っていたわけだ。
「他のメイド達は御主人が食べ終わるのを待たないといけない子達だから私達二人で先に食べていようか」
「え、それって失礼じゃないですか?」
私が言うと亀山さんは二人分の食器を食器棚から取り出しながら、
「毎日の事だから誰も気にしないわよ。それよか早く食べて仕事終わらせてお風呂被らないようにしないと。いつまで経っても入れないよ」
「そうなんですか……」
「たまに皆揃って食べる事もあるけどお風呂を二人三人で入るはめになるからね。お風呂位一人で入りたいでしょ?」
そういう事だから、と亀山さんは私の前に肉じゃがの入ったお皿にご飯の持ったお茶碗に三井さんの作ったおひたしなんかを調理台の上に置いた。
「さ、手を合わせて」
向かいに座った亀山さんに促され手を合わせて、
「「いただきます」」
……肉じゃが美味しいよ。若干砂糖が多めに入ってるのがあの三井さんの味付けなんて意外だけど。
「なかなか美味しいね、さすが巴だね」
そういえば、亀山さんは三井さんの事、下の名前で呼んでるんだ。でも亀山さんってとっつきやすそうだから納得かも。
「亀山さん、聞いてもいいですか?」
私が言うと亀山さんは行儀悪く箸をあれよと宙で踊らせて、
「あ、とめ、でいいよ」
「はい。とめさんは何処の所属なんですか?」
「ああ、ここ。私、コックだから」
口にいっぱいご飯を詰めて答えるとめさん。