桜ト智香物語
待ち合わせ場所の時計台から数分ほど歩いたあたりに、例の飲食店がある。
店内に入ると明らかに女性層向けに配置された可愛い小物や色調でレイアウトされており、ドアを潜るなり待ち構えていましたといわんばかりのタイミングで、これまた可愛い…淡いオレンジ色、チェック柄のフリル付きスカートの制服に身を包んだポニーテールの女性(なんか悔しいがとっても可愛い…)ウェイトレスが、緩やかな営業スマイル煌びやかに、いらっしゃいませーとお辞儀してきた。
自分的には、こう女の子らしい…というか、ふりふりふわっふわなオーラ全開の空気が、なんとも肌に合わないらしく、ぶっちゃけいえば苦手なのだが…。
こと、あたしの目の前でうずうずしているお姫様に関しては、瞳をキッラキラさせて、うわぁ…なんて桃色全快のうっとり声を、それこそ、忙しなく頭を動かすたびに漏らしているのだから…嫌な顔などしてられないだろう、まったく…。
ふふっ…っと、自然にでた笑みになんだか気分がよくなり、桜の頭をポンポンと叩きながら美少女ウェイトレスに相槌をうつ、それに頷きながら顔だけを動かしてもう一度軽く会釈をとるウェイトレスさん。
「二名様ですね?」
「はい…あーなるべく広い席ってありますかね…?」
「あっ、はい!!…」
爪先立ちになり首を伸ばしてポニーテールを左右に揺らしながら席を探すウェイトレスさん、実はちょっと感心していたりする。多くの店がそうと言う訳ではないけれど、車椅子の桜を見ると、奇異の視線を向けたり、気まずそうな口調になったり…悪いときにはあからさまに嫌悪剥き出しの接客をされたりというのが、決して少ないことではないのだが、この子は普通に接客してくれている…、嫌そうな顔を向けられていても気づかない振りを装って無理に笑う桜を横目から何度も見るのは、耐えられないものがある。その度に文句があるのかとガンつけて突っ掛かっていった訳だが、ここは落ち着く。
正直、悪態つけられたら女だろうが一発噛ます気持ちでいたけれど、この暖かい空間に変な緊張が解けた。
「それではこちらへどうぞ。」
明るくハニカムその誘導に従いながら、ワックスがまだ新しい床を踏み進む。
案内されたのは、注文通り大き目の通路によってゆとりのある空間が空いた窓際の席だった。道行く人や町並みの一角を眺められるその席は、この店の中でも一番の好ポジションではないのだろうか。
桜が車椅子から椅子に移るのを手伝ってやり、あたしも桜と向かい合う椅子に腰掛けると、さっ…とメニューを2つテーブルに置くウェイトレスさんは、頬をそっと染めながら、
「ご注文が決まりましたらそちらのボタンを押して御呼びください。」
と一礼して、最後に桜に微笑を向けてレジカウンターの方へテクテクと駆けていった。
その後ろ姿を最後まで見送ると、えへへ…っと照れくさそうに桜が笑った。
「このお店…なんかいいよねっ、可愛いし…店員さんも優しそうだし、」
「…そうだな、あのウェイトレスの制服、お前に着せたいよな…」
さぞ、いやらしい眼で嘗め回す。
「…っ!!もう…ちかちゃんは何考えてるの!?」
にへらにへら笑いながら桜のウェイトレス姿を妄想して舌なめずりをしてみせる。
「やぁ…!!そんな眼でみないでぇ!!」
余程ものすごい顔をしていたのか…桜はメニューで顔を隠しながら小さく叫んで、ブンブン首を振る。それがあたしの体を燻らせ胸が熱くなるのを感じた。嗚呼…あたしは変態なんだな…
外の心地よい陽気を浴び、欠伸をすると、メニューの影からこっそりこちらを見ていた桜が笑っているのがわかった。
可愛いなもう…パフェなんかよりもこいつを食べたい。
そんな危険なビジョンを必死で抑えながら、わりとシンプルなメニューをやっと開いてみた。