桜ト智香物語
あたしは、ここがこの店一番の特等席なんだと本気で思う。なぜなら…
「…んー、酸っぱくておいしー!!」
目の前に、トッピングの苺を頬張り、膨らました頬に手を当てながら、そんな苺に対して微妙なコメントを満面の笑顔で口走ってるお姫様を、甘ったるいチョコ味の生クリーム突きながら傍観できるのだから、最高級の贅沢であろう。
「…ほか、」
にやけながら相槌をうっていると、なんだかホカホカとくる暖かさを感じる。ああ…幸せだ。死んでもいい、いや、死にたくないけど…
「ちかちゃん、食べないの?」
またまた、急所をクリティカルに射抜いてくる乙女さで、スプーン銜えながら、首を傾げて上目遣い…やめろ、こんな大衆の面前で鼻血を撒き散らしたくないんだ桜、いや、やめないで。
「いやーよく食うなーって思ってさ。」
と言いつつも、自分の手が止まっていることに気づく。
ちょっとの苦笑いを浮かべつつ、グラスの中からはみ出たチョコレート色のアイスクリームをすくい、一口頬張る。その瞬間甘ったるいチョコレートの味が口の中に溶け込んだ。
「えっ…!!…あっ…あぁ……だってぇ…その…ちかちゃんがぁ。」
可愛い。パフェを片手に桜をおかずにするなんて、癖になりそうだ…
「あたしが何したんだよ…わかってるよ、桜は女の子だもんなっ、」
「そっ…そうだよっ!!女に子にとってケーキとパフェは命の次に大事なんだよっ!!」
「それはお前だけだっ、」
ぺしっと、おでこにデコピンを食らわす。
「きゃぅっ!!」
ピクッと縮まるハムスター桜はおでこを抑えて、むー…と頬を膨らませる。
「痛いよぉ…」
「そんなに強くやってねーよ…………ほら、あーん…」
何だかんだ言って、遅刻のことは忘れてくれたようだ。まあ、最後に念のため止めを刺しておくけど…。
桜は、自分に向けられたスプーンの先端に乗ったチョコレートアイスをポカーン…と見つめて、膨れ顔がみるみる笑顔に変化していく、返事もなく大きく頷くと、
「あーん…」
と、これまた小さい口を大きく開けて…パクり、密かに赤らめる仕草がそそる。
すると、桜も自分の苺バニラアイスクリームをすくいあげ…
「おかえしっ!!」
最上級の笑みで突き出してきた。
流石に恥ずかしいのだが…妙に嬉しさもある。
にこにこ微笑む桜に、しょうがないなぁ…なんて呟きながら、
ゆっくりと口をあけた。