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遼州戦記 保安隊日乗 6

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 要は呆れながら弾が全弾バレルの下のマガジンに入ったことを確認するようにローディングゲートを手でさすっている。
「実際有効性があるのが25メートルくらいだからな。かなり銃を撃つタイミングが難しい。クバルカ中佐。私からでいいですか?」 
 言葉を継いだカウラが弾を込め終わると静かにフォアグリップを引いていた。
「おっし。口で言っても分からねーだろうからな。そこの鉄板にぶち込んでやれ」 
 ランがそう言うとそのままカウラは10メートルくらい先の鉄板に狙いを定めた。すぐに初弾が放たれる。銃声の後、鉄板が鈍器で殴られたように大きく揺れる。
「へえ、面白いわね。じゃあ私も」 
 そう言うとアイシャはシャムが使っているショットガン、サイガと同型のオレンジ色に塗られたショットガンの重厚を30メートル先のペーパーターゲットに向けた。
 三発の銃声。そして着弾点で上がる土煙。
「面白いわね」 
 ニコニコ笑いながらアイシャはテーブルに置かれていた拡大鏡に手を伸ばした。
「ああ、当たってるわね。私すごいわ」 
 満足そうに頷くアイシャ。その同じ方向を要が見つめている。サイボーグらしく望遠機能を使用しているようで静かに額に右手を当てている。
「……当たり前だ、こんな距離」 
「じゃあお手本を見せてよ」
 口を尖らせるアイシャに対して笑みを浮かべてオレンジ色の銃にのフォアグリップを引く要。すぐさま五連射。すべてが15メートル先のこぶしほどの大きさの鉄板に命中する。そして満足げに全弾撃ちつくしたと誇るように誠達を見回す要。
「さすがよねえ。これは一応褒めとくわね」 
 再び拡大鏡を手に取ると頷きながらアイシャは鉄板を眺めた。おそらく当たった際に飛び散った袋の中の樹脂の塊が染め上げたのだろう。誠から見ても要の放った弾丸が全弾鉄板に命中してそれをオレンジ色に染め上げた事実を確認することが出来た。
「じゃあ私もやるか……」 
 カウラがそう言って初弾を装てんしたところでランがカウラの銃に手を置いた。
「オメー等射撃ごっこしているわけじゃねーんだ。全員そこに並べ」 
 仕方ないと言うようにカウラは銃口を上に向けて要達が使っていた射撃レンジに立った。要もアイシャも小さいとはいえ上官のランに逆らうわけには行かずに隣のレンジに移る。
「あのー僕は?」 
「神前は撃ち方自体がおかしいから。ここでアタシの撃ち方を見てろ」
 そう言うと130cmに満たない小さな体には大きすぎるショットガンの銃口をターゲットに向ける。
「まず反動は普通の殺傷弾よりでかいからな。こうしっかりホールドするわけだ」 
「まずアタシは普通の人間よりちっこいからな。こうしてしっかり銃にぶら下がるわけだ」 
 ランの声まねをする要。思わず噴出しそうになる誠だが上官相手とあって必死になってこらえる。
 完全に要を無視していたランが初弾をターゲットに命中させる。そして驚いている誠に見せ付けるようにして短い手で起用にポンピングしながら5発の弾丸を発射して見せた。
「こうやるもんだ」 
「小さいからな。よくできたなあ」 
「西園寺。一度死んでみるか?」 
 殺気立つラン。その元々にらんでいる様な顔がさらに殺気を帯びる。
「とりあえず見本だ」 
 カウラはそう言うと等間隔で五発の連射を行なう。ターゲットの金属プレートが煙に覆われる。
「低殺傷能力でもこれは危ないんじゃないですか?」
 誠の言葉に要が心底呆れたという顔をしている。
「『低』だからな。オメエが三ヶ月前まで使ってた22LR弾だって当たり所が悪ければ人は死ぬぞ。こいつも同じだ。頭とかに当たれば場合によっては十分死ぬからな」 
「そんなものよ。まあ警棒を振り回すよりは文化的でしょ」 
 要は機械のような動きで一発づつ確実に、アイシャは銃を裏返してバレルの下の弾倉にオレンジ色の派手な色のショットシェルを押し込んでいる。
「なんやかんや言いながら嫌いじゃないんだなお前等も」 
 カウラはそう言うと呆然と突っ立っている誠のひじを小突いた。仕方なく誠も不器用な手つきで弾倉を開いてショットシェルを押し込んでいく。
「遊びじゃねーんだからな。狙う対象は暴動に発展しそうな興奮状態の暴徒。それを一撃で殺さずに行動不能に陥らせる。それを頭の中でシミュレーションしながら撃てよ」 
 ランもまた装弾を開始していた。バスケットの中の弾は五箱。実銃の射撃訓練に比べると明らかに少ない。
「これも高い弾なんですか?」 
 弾を全弾装てんしてフォアエンドを引いて薬室に弾を込める誠。
「まーな。結構な値段だがスラグ弾やバックショットとはかなり弾道が違うぞ。急激に初速が落ちるからかなり狙いより下に当たることを考えろよ」
 親切なランの言葉を聴くと誠は銃口をターゲットに向けた。
「ボスン」 
 誠の撃った初弾はあっさりと出たがターゲットの手前で着弾した。
「もっと銃口を上げろ。初速は普通のスラグなんかよりぜんぜん遅いんだからな」 
 ランの言葉に少しばかり焦りながらポンピングをする。
 そして狙う。照準装置の無いショットガンでは感覚で着弾点を覚えるしかないことが誠も知っていた。
「ボスン」 
 今度はターゲットを飛び越えて白い弾頭らしきものが飛んでいくのが見える。
「ったく……お前本当に東和軍の幹部候補の課程を通過したのか?」 
 呆れる要に首をひねりながら再びショットシェルを込めて銃口をターゲットに向ける。
「ボスン」 
 ようやくターゲットの中央に弾が当たったのが分かる。人型の鉄板が揺れて着弾を表している。
「ボスン、ボスン」 
 四発撃ち尽くして誠は大きなため息をついた。
「誠ちゃん。もう少し練習しようね」 
 アイシャもさすがに呆れたと言うように誠の肩を叩く。仕方が無いとうつむく誠を見ながらカウラは自分の銃に弾を込めていた。
「まあ神前には剣があるだろ?どうせこの距離くらいでの衝突だ。警棒で対応できれば文句は無い」 
「その警棒で対応できないからこいつを使うんじゃねえのか?甘いねえ、隊長殿は」 
 カウラのフォローを台無しにする要。誠はいつものことなので逆に開き直って銃に弾を込め始めた。
「とりあえずこいつを消化しろとのお達しだ。特に神前は構えるところからはじめる必要があるな……西園寺!」 
「はい!」 
 ランの言葉に要はニヤニヤ笑いながら誠の銃に手を伸ばす。誠はこのまま何時間かこの樹脂製の割りに重い銃の構え方を繰り返させられるかと想像して大きなため息をつくのだった。




 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 6


 すでに訓練用に持ち込んだ弾はもう残りわずかだった。だが誠の銃の構え方が遅いとランと要からの指導は続いていた。銃口を下に向けターゲットに正対して立つ。そして合図とともに銃口を上げてすばやくターゲットに照準を合わせる。その繰り返しがもう100回以上繰り返されるとなれば体力には多少の自信のある誠でもさすがに腕に痺れが来た。それを見ながらニコニコ笑うアイシャ。カウラは厳しい表情を崩さない。誠はさすがにギブアップすべきかと考えながら銃を再び胸の前に構えた時だった。
「どうだい、進んでるか?」