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遼州戦記 保安隊日乗 6

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 一応司法執行機関と言う保安隊の名目上、当然暴動や治安維持任務には低殺傷能力の武器の使用も考慮されており、それに適した銃も抱えていたところで不思議は無かった。事実、以前ベルルカン大陸での選挙監視活動で第四小隊と随伴した警備部の部隊が現地で活動した際の映像にも目の前の青いショットガンを抱えて警備に当たる島田達整備班長の姿を眼にしていた。
「これってどれくらいの威力があるんですか?」 
 弾の入っていないショットガンを手に弄り回している要に尋ねる誠。振り返った要の顔は明らかにがっかりしたような表情に変わっていた。
「あのなあ、そんな子供がエアガン買うときみたいなこと言うなよ。名前の通りの威力だ」 
 そう言うと静かにガンラックにショットガンを戻す要。その隣ではこの小火器管理を担当する隊の隊長であるキムがランの手元の箱を開けてバスケットに中のオレンジ色の弾薬を入れているところだった。
「まあ当たり所が悪くない限りは打撲ぐらいで済むんじゃねーかなあ……何ならお前が的になるか?」
 そのままショットガンを手に取ろうとするラン。誠は身の危険を感じてそのまま壁にまで飛びのいた。 
「いい事言うじゃねえか。じゃあ防弾プレート入りベストを貸してもらってお前は標的役を……」 
 同じようにオレンジ色の銃を手に取ろうとする要。
「西園寺さん!ふざけないでくださいよ!」 
 本当にやりかねない要を見ながら誠は泣くような調子で叫んでいた。
「それじゃあ……っとふざけてないで行くぞー」 
 ランはそう言うと一挺のオレンジ色のショットガンを手に取る。カウラもアイシャも静かにそれを手にした。
「おめえはどっちにする?」 
 要は手にした派手なオレンジ色の樹脂製のセミオートマチックショットガンとポンプアクションショットガンを誠に手渡した。
「僕はこっちが慣れているんで」 
 そう言うと誠は迷わずポンプアクションショットガンを選んだ。
 部屋を出ながらまじまじと銃を見る。派手なオレンジ色の銃が並ぶ姿は異様だった。考えれば使用弾薬が殺傷用のバックショットやスラグが入っているのと低殺傷能力の布製弾が入っている銃に見分けをつけるのは合理的だがそれにしても明らかに毒々しく塗られた銃は異様だった。
「早速訓練ですか?」 
 誠達を待ち構えていたと言うような表情の島田にランは思わず手にしていた銃を肩に背負った。
「おー、ちょっくら鴨撃ちだ」 
「冗談よしてくださいよクバルカ中佐!」 
 ニヤニヤ笑いながらボルトを磨いていた部隊で二人しかいない十代の隊員西高志兵長が叫ぶ。
「くだらないことばっかり言ってるとボコにすんぞ!」 
 要の脅しに西の後ろで端末をいじっていたアメリカ海軍からの出向技官のレベッカ・シンプソン中尉が西の前に立ちはだかる。
「お熱いことで!おっぱいお化け!」 
 いつもレベッカの豊かな胸に嫉妬している要が叫ぶのを聞くと今度はアイシャが笑い出した。
「なんだよ!」 
「いやあ、要ちゃんの反応がいつもどおりで平和だなあって思っちゃったから」 
 そう言うとアイシャは手にしたショットガンのフォアードレバーをガチャガチャと動かして見せた。
「早くしろ!」
 すでにかなり先まで歩いていたカウラの声が重機のうなるハンガーの中で鋭く響いた。仕方が無いと言う表情で要は手にした銃を肩に乗っけたまま急ぎ足で歩いた。
「でも……オリジナル・アサルト・モジュールの出る幕なんてあるんですかね?」 
 誠の問いに要は首をひねりながら私に聞くなと言うような顔をして歩き続ける。ハンガーも半分を過ぎるとすでに整備を終えて待機状態の部隊の制式アサルト・モジュール達が静かにたたずんでいる。誠はその威容にいつものパイロットの誇りを思い出しながら黙って歩き続けた。
 ハンガーを出ると思い思いに銃を背負って疲れ果てたような顔をしている兵士達が現れた。着ているのは都市迷彩柄の保安隊の制式戦闘服。さすがに訓練と言うことで防弾ベストやマガジンポーチの類は身につけていないがそれでもやはり保安隊が軍隊に準ずる組織であることを誠にも思い出させた。
「姐御は絞るねえ」 
 要が兵士達、保安隊警備部員の姿を見てつぶやく。一応中佐や大尉の階級のラン達を見つけてよろよろと敬礼する警備部員。イヤープロテクターをはずそうとする姿は明らかに疲れ果てて見えた。
「あ、ラン。これからそいつの訓練か?」 
 中で一人、きっちりと戦闘服をそろえて着込んでいる長身の女性将校が金色の髪をなびかせながら近づいてきた。警備部部長、マリア・シュバーキナ少佐。その姿を見てランはにやりと笑う。
「その様子だと的当てだけじゃなくて相当走らせたな……銃の訓練はそれからか?」 
「まあ体が資本だからな、この業界は。それと銃の扱いも多少は慣れるべきだろう」 
「慣れるってレベルじゃねーだろ」 
 ランがそう言うのももっともだった。月に一万発のアサルトライフルでの射撃訓練。そんなことをしている部隊といえば東和には他に一つもなかった。それにいつもなら先ほどの格好に金属防弾プレート入りのベストと弾のぎっちり詰まったマガジンを持てるだけ持った状態でのランニングが訓練に加わると言う。
「ランのところが甘すぎるんだ。多少は鍛えるべきだろ?」 
「予算がねーよ。うちはただでさえアサルト・モジュールなんていう馬鹿みたいに予算を食う機材を扱ってるんだ。それに茜お嬢様のお手伝いもしないといけないからな。なかなか難しいもんだよ」 
 そう言うとランは手を振って自分についてきた誠達をせかした。
「ちゃんと訓練をしておけよ」 
 マリアが明らかに誠に対してそう言った。誠も射撃に関しては自信がないこともあって申し訳ないという表情で敬礼をしてみせる。
「ついて来い!」 
 ぎこちない誠の腕を要が思い切り引っ張る。よろめきながら誠は射場が見えるハンガー裏手に向けて歩き出した。流れ弾を防ぐ土嚢のめぐらされた通路を越えると空薬莢が転がる射撃レンジが目に入る。先頭を歩いていたアイシャが手にしたバスケットからショットガンの弾薬の箱を取り出すとテーブルの上に次々と弾の箱を並べていった。
「どーれ……サンドバック弾か……こいつは銃には悪そうだよなー。袋が破れりゃ砂がバレルにへばりついて……キムも苦労しそうだよこりゃ」 
 駆け足でアイシャに追いついたランが仕方がないというようにオレンジ色の毒々しい箱を開け始める。誠やカウラも仕方がないというようにそのまま射場に上がった。
「誠、オメエ的な」 
「西園寺。冗談を言う暇があったら弾を込めろ」 
 カウラはそう言うと新しい弾の箱から取り出した弾薬を一発一発オレンジ色の銃の下に開いたローディングゲートに弾を込めていく。
「これって何が入っているんですか?」 
 実は普段から同じ構造のショットガンを銃の下にぶら下げて使用している誠の言葉に要は大きくため息を着いた。
「あのなあ、基礎も基礎だぞ。弾頭には布製の袋が入っているんだ。その中身は重量のある樹脂。約5メートルで10センチくらいの大きさに開いて目標に到達。打撃力で相手を無能力化すると言うのが売り文句だ」