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遼州戦記 保安隊日乗 6

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「お前や島田の再生能力のことだよ!再生や治療系の能力は直接触ってねえと駄目なの!」 
「ああ、そうなの!」 
 分かっているのか分かっていないのか分からない調子で元気よくシャムが叫ぶのが部屋に響いた。
「どうでも良いけどよう。要するに能力を持ってる奴の能力を勝手に使うことができる能力の持ち主がいる……って結構やばいことなんじゃねえの?」 
「そりゃーそうだろ。だが法術を意識して探査してそれを利用しようとする。法術を知らなきゃ使いこなせない能力だ。元々法術自体が表ざたにされていない状況ではそんな能力を持っている奴も一生法術とは無縁で暮らせたのがこれまでの世の中だ。半年前の神前の能力を見たおかげでそんな面倒な能力に目覚めちゃったってーわけなんだからな……。意外と本人も迷惑に思ってるんじゃねーか?」 
 ランのまとめにヨハンが頷く。そしてどうしようも無い重い空気が会議室中に流れた。その空気の意味は誠にも十分分かった。最初に法術を公衆の面前で堂々と使って見せた最初の人間が自分である。それは誠自身が常に自覚し、時に自分を責めている事実だったから。ランもそれに気づいて咳払いをするとなんとか部屋の雰囲気を良くしようと部下達の顔を眺めてみた。
「皆さーん!元気して……無いわね」 
 沈鬱な雰囲気を破って現れたのはこういうときは必ず現れると言っていい運行部の騒音製造機と呼ばれているアイシャだった。
「なんだ?オメーがここに来る用があるのか?」 
 当然のように重い面持ちのランの言葉に入り口で氷ついたようになるアイシャ。
「いやあ……キム少尉が制圧用兵器の試射を要ちゃんに頼めないかって言われて……」 
 真剣なラン。しかも元々かなり目つきの悪い悪童という感じの視線ににらまれるとさすがのアイシャも回り道せずに用件だけを口にするしかなかった。だがそれまでの憂鬱な空気にうんざりしていた要はやる気十分で立ち上がっていた。
「ぐだぐだ考えるのはちっちゃい姐御とデブに任せるわ。アタシは自分のできることをするよ」 
「ほー、言うじゃねーか。まあ一応気にかけといてくれってことだ。今回の事件は法術がらみだが初動捜査が東都警察が仕切っているからな。アタシ等の出る幕がねーほーがいいんだ」 
 そう言うと興味心身で立ち上がるラン。ヨハンは自分の講義が中途半端に終わったことが不満なようで手にした小さなディスクを机の腕でくるくると回している。
「おい!オメエ等も来いよ!」 
 入り口で叫ぶ要を見てカウラと誠は顔を見合わせた。
「アタシも行く!俊平は?」 
「俺はちょっとヨハンの旦那に確認することがありそうだからパスだ」 
 そう言って胸のポケットからコードを取り出して首筋のジャックに刺す吉田。納得したようにシャムは立ち上がって要について出て行く。
「オメー等も来い。こっちの実演の方がアタシ等には重要なんだから」
 戸惑っていた誠とカウラにランが声をかけてきたので二人は渋々席を立った。



 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 5


 会議室を出ると冷たい風が吹きぬけたので誠は思わず首を竦めた。後ろに続く要はそれを見て何か言いたいことがありそうだがあえて黙っていると言う表情でそのままアイシャの後に続いて進んでいく。
「早くしろ」
 ランに背中を叩かれて我に返った誠はそのまま廊下を小走りに進んで勤務服のポケットに手を突っ込んだまま足早に歩く要に追いついた。
「制圧用の火器ってガス弾ですか?」 
 誠の問いにいかにも不機嫌そうな顔をして要が振り向く。そして大きくため息をついて後ろを歩いているカウラに目をやってまたため息をついた。
「そんなもん警察の機動隊がデモ隊相手に使う道具じゃねえか。うちはもっと非常事態に適したのを使うんだよ。そもそもショットガン撃ちが言うことじゃねえぞ、そんなこと」 
 それだけ言うと満足したように早足でアイシャの後を追う要。誠の携帯小火器は確かに9ミリ拳銃弾用に改造されたAR15アサルトライフルの下にショットガンを実装した銃であることは確かだった。誠はまだ要の言葉の意味もつかめずに彼女達の後を追った。そのまま実働部隊詰め所と管理部の前を通り過ぎハンガーの広がる景色を見ながら階段を下りる。
 ハンガーでは修羅場の様相が展開されていた。部隊長の嵯峨曰く『上から押し付けられた』と表現される新型機の運用状態へ持ち込むための整備手順の確認訓練がいまだに続いていた。保安隊の制式採用機である『五式』よりもより古代遼州文明が使用していた人型汎用兵器に近いとされるオリジナル・アサルト・モジュール『カネミツ』、『クロームナイト』、『ホーンオブルージュ』。
 たった三機増えただけだと言うのにハンガーを走り回る技術部の技師、島田正人准尉の部下を叱る怒声はいつもよりもはるかに鋭く感じられた。
「お疲れさんです!」 
 誠は寮長を兼ねている島田に頭を下げた。島田はそれを見るとにんまりと笑いながら駆けつけてきた。
「おっ!皆さんおそろいで。キムの野郎のところですか?」 
「なんだよ、お前等には関係ねえだろ?」 
 さすがに死にそうな表情で作業をこなしている部下に背を向けて声をかけてきた島田に要は呆れたようにそう答えた。
「西園寺さん。あれは次にはうちの餓鬼どもに撃たせる予約が入っているんですよ」 
「へえ、お前等もあれを撃つのか?」 
 要の声に頭を掻いて周りを見回す島田。島田の言葉が聞こえたと思われる隊員はさらに続くだろう訓練を想像したらしくげんなりした表情で機材の影に消えていく。
「おい!西園寺!」
「無理するなよ!」 
 ランの怒鳴り声がハンガーに響く。要は舌を出すとそのままランのところに急いだ。
「神前、お前も呼ばれてるみたいだぞ」
 二人の会話に呆然としていた誠に島田が声をかける。誠も我に返って島田を置いて技術部の詰め所が入っている一階のフロアーに駆け込んだ。
「技術部の人もやるんですか?」 
 誠の問いにただニヤニヤ笑うだけの要。そして先頭のアイシャは小火器の管理を担当するキム・ジュンヒ技術少尉が主を務める技術部第二分室の扉のドアをノックした。
「開いてますよ!」 
 キムの声が響いたのでランは先頭になり部屋に入った。
「これかよ……」 
 先に入った要の声に少し興味を持ちながら続いた誠だが、そこに待っていたのは明るい青色の樹脂でできたショットガンが並んでいる光景だった。そのうちの一丁を長身の作業着に汚れた前掛けをつけた士官がランに持たせて小声で説明している。ランは何度かうなづきながらその隣に置かれた弾薬の入ったケースを叩きながら振り向いた。
「模擬弾使って射的ごっこか?つまらねえな」 
「模擬弾とは失敬な!一応鎮圧用の低殺傷弾入りのショットガンですよ」 
 それまでランと小声で話していた作業着の将校、キム・ジュンヒ技術少尉がきつい調子で要に反論した。
「威力が半端なだけになお悪りいや」 
 頭を掻いて銃に手を伸ばす要。誠はランの手元のオレンジ色の派手な弾薬の箱に目を向けていた。