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遼州戦記 保安隊日乗 6

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 地球の殖民惑星遼州の政治経済共同機構である『遼州同盟』。その司法実力部隊の保安隊には『法術』と切っても切れない関係にあるといわれ続けてきた。人々は保安隊が世に最大のインパクトを後に残した『近藤事件』と呼ばれる事件を語る。同盟加盟国『胡州帝国』のクーデター阻止がその出動の内容だったが、そこで誠が使用した法術が一般に知られる法術の使用の最初の事例だったのは事実だった。それから人々はこの遼州に住む人々の持つ法術に関心を持ち、それを以前から軍や研究者が知っていたという事実を知ることになった。
 そんな軍の法術研究の部署はかつては存在しない力を扱う奇妙な集団として扱われるか、トップシークレットとして機密の中に閉じ込められるのが宿命だった。元々外惑星に存在し、地球からの移民が圧倒的に多く研究の遅れていたゲルパルト共和国の国防軍法術研究機関出身のヨハンはよく当時の自分の研究を無駄飯食いと評した友人のことを語ることが多かった。だがその巨体を見ると本人が無駄飯食いなんじゃないかと誠ですら思うことが多かった。
 ヨハンの晴れ舞台という法術に関する説明を行う会議室。だがその光景はあまりに間抜けだった。ほとんど多目的ホール扱いのこの部屋。来月に豊川市街で行なわれる予定の節分の行事のために用意された鎧兜が所狭しと並べられ、その合間には同じ日に上映される自主制作映画の為のコスチュームの入った箱などがてんでんばらばらに並べられている。これまでに無い事件を検証するにはあまりに乱雑である意味シュールにさえ見える部屋。そこでヨハンは晴れやかな表情で周りが気になって仕方が無い誠達を見下ろしていた。
「あのなあ、ヨハン。ここで本当にいいのか?」 
 座っているパイプ椅子を傾けながら要がヨハンにしみじみとつぶやいた。ヨハンもとりあえず半笑いで周りを見渡す。彼がどんなに自分のこれからの言葉に自信を持っていようがずらりと並ぶ着ぐるみや鎧兜の葛篭が消えるわけも無い。
「しゃーねーだろ?他の部屋は雑兵衣装であふれかえっているんだからよー」 
 頭をペンで掻きながらランが答えた。現在捜査の中心は法術特捜の嵯峨茜警視正だが、彼女と部下のカルビナ・ラーナはすでに5件もの違法法術発動事件を抱えて身動きが取れない状況だった。それを彼女の父親で保安隊隊長嵯峨惟基特務大佐が下請け仕事と銘打ってとってくるのはいつもの話だった。そしてそうなると本来は人型ロボットで切った張ったが商売の実働部隊が暇人だと言うことで担当させられることになるのもいつものことだった。
 実働部隊長のランはしばらく自分の発表の場が余りにカオスナことにショックを受けているヨハンの隣からなにかメモ書きを彼に手渡していた。その先には鼻と唇の間にペンを挟んで退屈そうにランを見つめている第一小隊二番機担当のナンバルゲニア・シャムラード中尉がいる。そしてその隣でネットの海に直結した電脳デバイスの世界に逃避しているのは三番機担当の吉田俊平少佐だった。その隣、一人だけノートを持ってペンで何かを書こうとする神前誠。その両隣は第二小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉と西園寺要大尉が座っている。
「あのー説明始めていい?」 
「ヨハン、こいつ等のこと気にかけるだけ無駄だぞ。てきとーに話して終わりにしよーや」 
 投げやりなランの言葉に説明をするということでヨハンの低いテンションはさらに低くなる。
「じゃあ、はじめます」 
「はい!」 
 演操術について語ろうとした話の腰を見事に空気を読まないシャムが元気に手を上げてへし折った。
「なんだ?」 
「たぶんアタシわかんないから寝ててもいい?」 
 シャムの言葉にランは悲しげな表情で隣に座ってにやけている吉田に目を向けた。
「シャム……」 
「冗談だって!ね、ランちゃん」 
「冗談?いつものことじゃねえか」 
 明るいシャムの言葉に要が突っ込みを入れた。呆れているラン。いつもの光景にヨハンは自分の不幸を笑うような力の無い笑みを浮かべた後、モニターに画像を転送した。
 円グラフ。そこにはテレパス、空間干渉、意識把握などの法術の能力名が並んでいる。
「見ての通り法術師の発生確率は一万分の一以下とされている。ほとんどが遼州系の人物だが、確立は落ちるが純潔の地球系の住民にも法術師の発生が確認されている」 
「先生!いいですか?」 
「なんですか?西園寺大尉」 
 話の腰を折られて吐き捨てるようにつぶやくヨハンをいかにも楽しそうな要が眺めている。
「血筋云々の話は別としてアタシみたいなサイボーグに法術師の発生例はあるんですか?」 
「そう言えば康子さんは空間干渉の達人だったな」 
 要のもっともな話にカウラが頷く。
「今のところサイボーグの法術師の発生例は無いんですがね。ただ西園寺大尉がその初めての例になってもおかしくないですね」 
「と言うとなんだ?」 
 退屈そうなランの一言に大きく頷くヨハン。
「先ほど法術師の発生に純潔の地球系でもその例が紹介されていると言う話ですが、すべての発生例が遼州系の住民と接触する機会の多い人物に限られています。当然大尉は神前と接点が多いわけですから法術の才能が開花してもおかしなことはひとつもありません」 
「ふうん」 
 満足したと言うように要は椅子の上で伸びをした。
「それじゃあ私がその力を得ても良いわけだな?」 
 今度はカウラだった。説明するだけ面倒だと言うようにヨハンはニヤリと笑って頷く。ようやく話が軌道に乗ってきたので先ほどまでの憂鬱な表情はヨハンの顔からは消えていた。
「まあそれじゃーいくらでも法術師は増えるわけだな」 
 ランのまとめで次の話題に移る所だが、すぐにヨハンは首を振った。
「違いますね。そここそが一番今回現れた犯人の能力である『他能力制御』の肝ですから」 
 そう言うとヨハンはモニターの画面を切り替えた。そこには各能力とその能力がどのように発動するかの図が載せられていた。
「多くの法術は視床下部のこの部分の異常活性化を原因としていると言う説が現在定説ですが、この……」 
「御託はいーんだよ。さっきの話の決着つけてくれ」 
 小さいランの一言に研究者としてのプライドを傷つけられたと言うように大きく深呼吸をするヨハンの姿は実に面白くて誠は噴出しそうになるのを必死にこらえた。それはすぐにヨハンに見つかり、冷ややかな視線が誠に集中した。
「手っ取り早く言うと法術師の法術発動の際の特殊な脳波は周りの人々の脳波にも影響を与えるんです」 
「で?」 
「逆に法術を常に待機状態にしている法術師に同じように脳波での刺激を与えれば法術は本人の意図と関係なく発現し……」 
「その脳波を発した人物。演操術師の意のままに発現するってーわけか……こりゃー面倒な話だな」 
 ランの顔が引きつる。
「つまりあれか?ほとんどの能力の乗っ取りが可能なわけなんだな?」 
 珍しく真剣な表情の要。その問いにヨハンは大きくうなづいた。
「再生能力なんかの接触変性系の法術以外は発動可能です」 
「接触変性?」 
 シャムはそう言うと周りを見回す。しばらく頭を掻いた後で要がシャムの鼻を突付いた。