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遼州戦記 保安隊日乗 6

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「鍛えたも何もテメーの体は特注品の軍用義体じゃねーか」 
 小さな女の子が扉の入り口に手をかけて突っ立っている。その後ろにはにんまりと笑うアイシャの姿もある。
「クバルカ中佐」 
 保安隊副長のクバルカ・ランの登場にカウラは座りなおして敬礼をした。小柄と言うよりどう見ても小学生低学年くらいに見えるランだが、その自信に満ちた態度は誠達を束ねている保安隊副長の貫禄を感じさせている。
「おー。別に気にすんなよ。ここじゃーアタシもただの隊員だ」
 そう言いながらランが扉から手を離して誠の隣へと進んだ。そんなランにぴったりと付き従うのがアイシャ。 
「そう、じゃあよい子ね」 
「頭なでるな!クラウゼ!」 
 いきがるランの頭をなでるアイシャ。まるでここが準軍事組織の寮だとは思えない光景が展開する。いつもの見慣れた光景だが、実家から帰って久しぶりに見るとおかしさが再びこみ上げてきて誠は必死になって笑いを堪えた。
「で、ちび中佐の言いたいことはなんすか?」 
 どっかりと胡坐をかいて居座る気が満々の要がランをにらんでいる。その様子があまりにも敵意むき出しなので誠ははらはらしながら二人を見つめていた。
「実は……内密な話なんだけどな」 
 ランはそう言うと後ろで立っているアイシャに目をやる。アイシャもその様子を悟って開いたままのドアを閉めた。
「先月の末だ。厚生局からの通知があったんだが……法術適正の検査基準に間違いがあったそうだ」 
 ポツリとつぶやくように小さな上官から出された言葉に誠達は唖然とした。
「間違い?そりゃあ大問題だぞ!下手したら……」 
「西園寺。落ち着け、それで?」 
 大声を上げた要を制してカウラがランの幼いつくりの顔を見つめた。
「確かによー空間干渉や炎熱系なんかの派手な法術の適正は脳波のアストラルパターン分析でその能力を特定できるんだが……」 
「演操系の波動は特定できないと言うことかしら?」 
 アイシャの問いに静かにランは首を縦に振った。
「マジかよ……じゃあ手がかりなんて何も無いじゃないか!そもそもその検査だって東和じゃ任意だ。それを通っても黒か白か分からないなんて言ったら……」 
「このまま発表すれば同盟議会の議長の首が飛ぶだろうな」 
 叫ぶ要をなだめながらカウラはそうつぶやいていた。
「ザル検査じゃない!やっぱり厚生局はあてにならないのよ。もしかしてわざと演操系だけ引っかからないような装置を作るように頼んだんじゃないの?」 
「クラウゼよー。そこまで厚生局を悪者にすることねーんじゃないのか?」 
 落ち着いた様子でどっかりとランが腰を下ろした。つられるようにアイシャも誠を囲んで座り込む。
「いわゆる演操系の能力には二種類のパターンが存在するんだ。そしてその研究が始まったのはつい最近なんだ」 
「へえ、アメリカさんとかは遼州入植以来の研究でずいぶんたくさん研究してたはずなんだけどな」 
「要よー、それはあくまで推測だろ?それにあそこは世論が基本的に保守的だからな。表向きはヒトゲノムの解析は一切やっていないことになってたはずが……とかいろいろ事例はあるからな。どこまであの国が法術について知っているかは大統領になって引継ぎでも受けなきゃわからねーだろうな」 
 話の腰を折られて口を尖らせながらランは話を続ける。
「演操系って言うとよー。どうしても操る相手の意識そのものに介入して動きを制御すると思うだろ?確かにそう言う能力の持ち主の割合は高けーんだけど……」 
「なんだよそれは?操るんだから意識も乗っ取るんだろ?それともあれか?意識はそのままで体だけ動かすとか」 
「要ちゃん!その能力欲しい!そして……」 
 突然叫んだアイシャに誠達は冷たい視線を投げた。仕方が無いと言うように口を押さえてアイシャがそのままうつむく。
「それじゃーねーよ。意識云々の話は能力の強弱であってここで言う能力の種類とは違うんだ。それとなんでこの第二の演操術が分からなかったかと言う理由もそこに有るんだ」 
「もったいつけるじゃねえか。ずばり言えよ」 
 短気な要はタンクトップの下から手を入れて豊かな胸の下の辺りをぼりぼり掻いている。思わず目をそらす誠にむっとしたような表情のカウラが映って誠も視線を落とした。
「ふー。まー分かりやすく言うと他人の能力を乗っ取るんだ」
 しばらくランの言葉が理解できずに誠達は黙り込んでいた。 
「どういう意味ですか?」 
 首をひねるカウラに少し笑みを浮かべてランは口を開いた。
「つまりだ、標的とする法術師の能力を借りて自在に操る。まー他人の褌で相撲をとるって奴さ」 
 ランはそう言うと自分の胸に手を伸ばしてきた要の頭を思い切り叩いた。
「何すんだ!テメー!」 
「いやあ褌とか言うと面白くってさ」 
「だと何でアタシの胸を触るんだ?」 
 突然の行動に顔を赤らめるラン。そして同じように手を伸ばしてきたアイシャをその凶悪そうな瞳でにらみつけた。カウラはなんとも複雑そうな笑みを浮かべながらランが落ち着くのを待って口を開いた。
「馬鹿は置いておいて。つまり、法術の存在が広く認知されるまではその能力そのものが見つからなかったわけですね……例の意識乗っ取りタイプの通り魔のように法術師を飼っている勢力が絡んでいる可能性は少ないと」
「そー言うこった。法術だけを研究している間はそれぞれの能力の関係なんて気にもかけてなかったからな。能力が存在すること自体が不思議だった時代にはそれを利用してしまう力があるなんて考えもつかないだろーしな。となるとまったく未知の能力だ。見つかった事例も東和で二件ほどだ……ああ、その二人についてはアリバイがあるから今回の事件とは無関係だからな」 
 落ち着いてつぶやくとランは立ち上がった。
「ここでグダグダ話していても始まらねーよ。飯食って屯所で話そうや」 
 そんなランの言葉に誠達は時計を見る。ちょうど今日の朝食当番のヨハンが得意のリゾットに仕上げの隠し味を入れている時間だった。
「じゃあ食堂に行くか?」 
「要さん、何で疑問系なんですか?食べますよ僕も」 
 仕方なく立ち上がる要について誠も立ちあがった。アイシャはすでにドアに寄りかかって誠達を待っていた。
「それにしても他人の力を勝手に使えるってんだろ?最強じゃないか、考えてみたら」 
 要のつぶやいた言葉に誠も頷く。そしてそうなれば自分の空間操作能力も利用されるだろうことを考えてそれをどう使うつもりなのかを考えてみた。
「最強だろうが最弱だろうが今のアタシ等がすべきことは飯を食うことだ。とっとと行くぞ」 
 そう言うと気軽に手を振ってランが廊下に出て行くのに誠達は付き従った。



 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 4


「さてと……いいですか?」 
 明らかに太りすぎている技術将校ヨハン・シュペルター中尉はボードを前に誠達にレクチャーを始めようとしていた。