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遼州戦記 保安隊日乗 6

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「なに?要ちゃんは芯が好きなの?」 
「食物繊維だよ」 
「サイボーグが健康志向か?」 
「絡むじゃねえか。隊長殿」 
 いつものように要達の話が展開しているのを見て誠は安心してスープをすすった。
「二日目……意外とこういうときに見つかるんだよな」 
 要はスープを飲み干すとトーストに食いついた。
「そうか?まだ全地域をパトロールできたわけでは無いんだろ?それに反応が丁度よく現れるとなると確率論敵にはかなり低い話になるぞ」 
「そうよね。まあ節分前までには決着が付くといいわね」 
 カウラとアイシャ。それぞれにトーストとソーセージをかじりながらそれとなく誠の方に目をやりながら食事を続けていた。
「捜査なんて……よく分からないですけど……西園寺さん。そんなものなんですか?」 
 スープの味付けが少し濃すぎたのを気にするように舌を出しながらつぶやく誠に要は手を広げて見せた。
「すぐにターゲットが見つかるなら本当にすぐに見つかるもんだ。見つからない時は……」 
「それはあるかもしれないわね。アニメキッズの景品も欲しいと思っているときはスクラッチの点数が低くてもらえなくて、これは興味が無いから当たったらシャムちゃんにあげようとか思っているときは結構いい点数が出て好感するかどうか迷うことが多いもの」 
「その例え……適切なのか?」 
 アイシャの独特の話題についていけないカウラが突っ込みを入れる。周りでは時間に厳しい技術部部長の許明華の部下達がすばやく食事を済ませてトレーを返しに行っている。
「じゃあ、がんばってくださいね」 
「オマエこそ潰されるなよ!」 
 島田が苦笑いを浮かべながら立ち去る背中に要が声をかける。
「それにしても……他人任せってのは……」 
「それなら要ちゃんが計測器を持って走り回れば良いじゃないの」 
「アイシャ……テメエ一回殺してやろうか?」 
 苛立つ要。誠も二人の気持ちを察しながら静かにパンをかじった。もうすっかり二人の喧嘩に慣れたカウラはため息をつきながらデザートの温州みかんの皮を丁寧に剥いていた。


 低殺傷火器(ローリーサルウェポン)41


「いつ見つかってもおかしくないんですから。皆さんも十分注意してくださいね」 
 ラーナの言葉を待たずに誠達はそれぞれの端末にかじりついて警邏隊が車に積んでいるアストラルゲージの検索結果に目を通していた。
「言われるまでもねえよ」 
 そう言うと要は首のジャックに端末のコードを接続している。
「退屈よね……」 
「言うことはそれだけか」 
 不機嫌そうに流し目を向けてくるアイシャに厳しい視線を送るカウラ。誠は苦笑いを浮かべながら目の前のモニターに目を向けていた。平坦なグラフが見える。時々跳ね上がる数値に驚いて以前の事件の際のデータを引っ張り出すが、すぐにゲージは穏やかに下がってしまう。
「意外と法術師って多いのね。東和は法術適正検査を義務化したほうが良いんじゃないの?」 
 アイシャの言葉にカウラがため息をつく。誠もただ引きつった笑みを浮かべるだけだった。
「法術検査を受けるかどうかは東和では個人の意思ですから。同盟も内政干渉はできないですよ」 
「同盟は内政干渉は行わないか……まあ理屈では分かるんだけどめんどくさい原則よね」 
 ラーナの弱った顔に満足したように頷いたアイシャはそのまま画面へと視線を戻した。
「見つかるものなら早く見つかるといいな」 
「西園寺も良いことを言うもんだな」 
 要もカウラも昨日一日同じことをしていたのを思い出したかのようにうんざりした表情を浮かべていた。
「無駄口を叩くんじゃないわよ」 
「一番叩きそうな奴に言われたくねえよ」 
 アイシャもすでに飽きている。人造人間とサイボーグ。どちらも忍耐力は通常の人間よりも有るはずなのに明らかにその限界は近くまで来ていることを知って誠はただ苦笑いを浮かべるだけだった。
「神前、飽きねえか?」 
「仕事ですから」 
「ふーん」 
 まじめにモニターを見つめている誠の言葉にとげのある表情を浮かべながら再び要の視線はモニターに向かった。
「また反応だ……」 
「ちゃんとチェックしろよ」
 カウラの声に要はうんざりしたような表情を浮かべる。 
「隊長命令か……ちょっと待て!」 
 要が突然立ち上がった。その叫びに全員が立ち上がり彼女のモニターに目をやる。時々数値が跳ね上がる。特徴的なアストラルパターン。
「ほら見ろ、またすぐに出やがった……特徴的なベータ波と……アストラルゲージは常に反転限界点で進行中だ」 
 得意げな要だがカウラがまじまじと画面を見た後ですぐに横からキーボードを叩いて事件現場で計測されたアストラルゲージパターンと照合する。
「似てはいるが……」 
「だろ?」 
「馬鹿ねえ、要ちゃんは。似てるから即犯人とは限らないでしょ?」 
 アイシャの言葉に頬を膨らませながら一人自分の端末のキーボードを叩いているラーナに目をやった。
「東寺町……3丁目。古いアパートが多い場所ですね」 
 淡々とつぶやくラーナの言葉が終わる前に要はそのまま腰の拳銃を確認するとそのまま部屋の奥にかけられたコートに向かっていく。
「西園寺!」 
「なんだよ!犯人かどうか片っ端から訪問してそいつが怪しいかどうか確かめれば済むことだろ?」 
「そんな胡州じゃないんだから」 
 アイシャの言葉に含まれた『胡州』と言う言葉が要の暴走を止めてくれた。コートに伸ばしていた手を引っ込めると要はそのままラーナのところへと歩み寄った。
「西園寺大尉も分かってらっしゃるとは思いますが、政治犯が山ほどいる胡州なら予防検束はできます。でもここは東和です。何度も繰り返し申し合わせをしたとおりアストラルパターンデータは証拠としての力がありませんから……」 
 手を止めずにラーナはつぶやいた。誠も彼女が何をしているのか気になってそのまま立ち上がり要の横に立った。
「ここで例の不動産関係の資料を生かすわけね」 
 納得がいったように頷くアイシャ。ようやく自分の行動を理解してくれる人物が現れたことに安心したようにラーナは頷いた。
「まず……吉田さんからもらったキーワードで……」 
「なんだ?あの機械人形はラーナにはそれを教えてたのか?」 
 不機嫌そうな要の肩を静かに叩くアイシャ。その様子を見て切れそうになる自分を治めるためのように要はゆっくりと深呼吸をした。
「出ました。……水島勉……この前の十五人には入ってない名前だな」 
 画面に一人の人物の戸籍謄本が映し出される。
「前科無しか……別件で引っ張るわけには行かないか?」 
「西園寺。貴様は逮捕することしか考えていないんだな。それに例の十五人はどうする?無視か?」 
 カウラの諦めたように一言に要は舌打ちで答える。
「例の十五人は東和警察の皆様に調べていただくとしても……法術犯罪は現行犯が基本よ。とりあえず身辺を探ることから始めないと」 
 そう言うとアイシャはすぐに先ほど要がコートを取りに戻った場所へと向かう。
「制服着てか?それこそ現行犯は無理になるだろうが」