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遼州戦記 保安隊日乗 6

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 ラーナの事務的な反応に舌打ちをした要を見て笑みを浮かべるアイシャだが、その目は笑っていなかった。
「ラーナちゃんが知っていたってことは……その筋の人の間では誠ちゃんて有名人だったの?」 
「さあ……」 
 またとぼけるラーナ。相手を読めるアイシャは何を聞いても無駄だと思ってそのまま黙り込んで席に体を押し付けた。
「僕の力の話はここですることじゃ……」 
 誠の言葉に不思議そうな顔をする要がいた。めんどくさそうに一度視線を外した後ため息をつく。
「ここまでの話の流れと事件の容疑者の能力で分からないか」 
 カウラのその言葉。ようやく誠は結論に行き着いた。
「僕を外すと言うことですか」 
 ある程度は誠にも分かる話だった。相手は法術師の能力を奪って暴走させることで世間に何かを伝えたいと思っている愉快犯であることが想像できる。ならばその法術師の再発見のきっかけを作った誠の能力を暴走させることが犯人の最大の喜びにつながるだろうことも想像できた。
「でも……外したら隊長がこの面子で東都警察に私達を出向させた意味が分からなくなるじゃない。私としても誠ちゃんが外れた方がいいと思うけど……隊長の意向もあるしね」 
「叔父貴の都合か……そうだけどな」 
 アイシャのフォローにもただ要の表情は曇るだけだった。誠の能力は干渉空間展開と領域把握能力の二種が確認されていた。干渉空間を展開し、その中の存在を有る程度意のままに操れる。それは先日の死者を出した事件を見ればかなり危険な能力だった。そして領域把握能力をハッキングして他の隊員の意思を読み取られてしまえば逮捕どころの話ではなくなる。
「法術師を使いこなせ……相手が誰でも……そう言いてえのは分かるんだけどさ」 
 再び要がこめかみの辺りの長い髪を掻きあげる。沈黙がその場を支配した。
「でも私も法術師ですけど?」 
 ラーナは相変わらずモニターから目を離さずにそうつぶやいた。思い出したような要の表情。そしてアイシャがうれしそうに頷く。
「要ちゃん。ラーナちゃんも捜査から外すつもり?」 
「こいつは慣れてるから良いんだよ!」 
「慣れてるって……この種の法術師が発見されたケースはほとんどありませんけど」 
 そんなラーナの言葉に要はさすがに頭に来たようで手を上げかけたものの静かに右の握りこぶしを静かに下ろした。
「ああ、ようやく我慢を覚えたか」 
「うるせえよ」 
 カウラにチャカされて要は苦笑いを浮かべていた。


 低殺傷火器(ローリーサルウェポン)35


 監視されている。水島はこの二日三日でそう思うことが多くなった。
 豊川市の中央図書館。ようやく住民登録も済ませて利用のパスを手に入れた彼だが明らかに視線のようなものを感じていた。
 視線だけではない。明らかに自分の力に何かが反応しているのが感じられる。
 その感覚は突然彼を襲う。頭の奥をくすぐるような微かでいてそれでいて確実な感触。最初は歩いていて驚いて立ち止まるほどだった。通り過ぎたパトロールカー。運転朱にも助手席の警察官にも力は感じない。それでも明らかに自分の中の力、脳はそのパトロールカーに何かを感じていた。
 それからは何度となく同じ感覚に襲われることがあった。昨日は夜中に三度目が覚めた。脳に残る確かな接触の感覚。
『誰も知らないはず……』 
 結局は昨日の不眠が祟って睡魔に襲われ続けて勉強どころではない。それでも日常に変化を付けること自体が何かに負けたような気がする。水島は休憩室の周りの無神経な高校生達の場違いな声に苦虫を噛み潰しながらそのまま奥の自習室へと向かう。社会人失格の烙印を押された自分が彼等を注意することなどできない。
 そう思いつつ周りに法術師を探している自分がいた。いらだちはいつものように紛らわせばいい。だがそうだろうか?自問する自分。
『今はあまり力は使うべきじゃないな』
 先日の能力の暴走と死を知って少しばかり臆病になっている自分を思い出して苦笑いが自然と湧き出てきた。
「おじさん」 
 突然背中から声をかけられる。そこには見慣れた少年の姿とはじめてみる女性の姿があった。
「君……」 
 自分の言葉が震えているのが分かる。二人ともアジア系。それだけはなんとなく分かった。女性の黒い長い髪とそれに似合う黒いオーバーコート。暖房の効いた室内だと言うのに汗一つかかず黙ったまま自分を見つめている。
「紹介するよ。僕の姉役のキャシーだよ」 
「初めまして……」 
 女性が思ったよりも若いことが声を聞いて分かった。仕方なく水島も軽く頭を下げた。
「キャシーも僕等と同類だから」 
 気軽にそういう少年だが、その顔を見た瞬間に頭の中に違和感を感じて水島はよろめいた。
「……彼女は……」 
「おじさんと同類だよ……僕の能力すら勝手に使うことができる力がある」 
 少年の笑みが残酷に広がる。水島はきつめの視線が特徴のキャシーと呼ばれた少女に目をやった。
「キャシーさんのことはいいとして。君の名前を僕は知らないんだけどな」 
 水島のおどおどした調子のつぶやきに少年は大げさに驚いてみせる。
「そうだっけ?」 
「そうだよ、一度も聞いたことがない」 
 しばらく考えた後、少年は思い出したように手を叩いた。
「そうだそうだ。確かに教えてなかったね。僕の名前はジョージ。ジョージ・クリタ」 
「ジョージか……」 
「何か文句があるの?」
「いや……」 
 水島には少年の名前に違和感を感じていた。以前、ニュースで少年と同じ顔をした人物を見たような気がしていたのがその原因だった。だがその見たという時期があまりに古く。それに比べて少年はどう見ても幼すぎた。
 そんな少年を見つめている自分を少女は明らかに不機嫌そうな表情を浮かべつつ見つめていた。
「悪戯をされると困りますから。私が忠告をしに来ました」 
 たまりかねたような一言だった。
『忠告』。確かにそんなものがいつか来るのは予想がついていた気がする。そしてその言葉が意味する巨大な権力の陰。思わず水島は手にしていたバッグを取り落とした。
 ゴトリと落ちる布の音が響いた後、開けたバッグの中から転がり出た筆入れなどが床を転がりけたたましい軽い音が廊下に響いた。キャシーはまるで氷のように一瞬だけ笑みを浮かべると水島が取り落としたバッグからこぼれたノートと筆入れを取り上げた。
「僕の行動はすべてお見通しという訳か……いい訳するだけ無駄か」 
『そうですわね』 
 突然頭の中に介入してきた思考に水島は驚いて手にしていた本を落とした。すぐ拾い上げながらもその目は口を閉じている少女に向かっていた。
『あなたにはもう選択の余地は無いんです。分かりますか?』 
 キャシーの目は冷たく水島を見つめていた。はじめてみる感情の死んだような女性の目にただ呆然と座り込む水島。誰もが奇異の目で見るが立ち上がる気力は沸いてこなかった。
『演操系の法術は使用するタイミングによっては前回の様な悲劇につながります。きちっとした訓練とそれを行なえる組織。それが今のあなたには必要なんです』 
「米軍につけと言うのか?」