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遼州戦記 保安隊日乗 6

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 誠はじっと筒先を構えるとすぐに大きな反動が来てその先端から水がほとばしり出でた。周りの人々が逃げる先には警察官に混じってちぎった袖で誘導をしているアイシャの姿もある。誠はそれを確認すると安心して燃え盛る祠に放水を続けた。
「大丈夫か?」 
 応援の警官隊の配列を終えた要が何とか慣れない放水をしている誠に手を伸ばしてきた。
「本当に狙いを定めるのが苦手だな、お前は」 
 そう言って誠からホースを奪い取ると火の中心に的確に放水をする要。ポンプの設定が済んだカウラも顔中墨に塗られた状態で力が抜けて倒れそうになる誠を何とか支えた。
「大丈夫か?さっきはお前にも何かあったんだな」 
 カウラの言葉に力なく誠は頷いた。
「パイロキネシストの力の発動を感じました」 
「そうか!」 
 目の前ではほとんど鎮火してきたお堂に水を撒く要の姿がある。そして避難の誘導の為警官隊を指揮していたアイシャも誠達の所に戻ってきていた。
「ああ、これじゃあまた要ちゃんに買ってもらわなきゃね」 
 そう言うとちぎった袖をひらひら振りながら必死に高圧の水圧のホースにしがみついている要に見せびらかす。要はちらりとアイシャを一瞥したが、任務に忠実に無視して放水を続けていた。
 要の放水は的確だった。確実に火の勢いは弱まっていく。そしてほぼ鎮火したんじゃないかと誠の素人判断で思えるくらいになったときにようやく防火服を着た消防団の面々が要と交代することになり誠達は消火作業から解放された。
 しかしそれからは誠達の本業。遼州同盟司法局特別機動部隊、通称『保安隊』の仕事の領分となった。焼けた振袖のままの要を先頭に誠達は本宮の裏手に並んでいる警察車両の中の指揮車と思われる車へと足を向けた。先にこちらで被疑者の拘束を担当していたアイシャが疲れた表情で誠達を迎える。
「容疑者は特定できたのか?」 
「一応近辺にいた人達はすでに車両で移動して警備本部でお待ちいただいているわよ。パイロキネシスなんて珍しい能力だものすぐに犯人は特定できるわね……それにしても馬鹿な犯人ね。こんなに人がいるところで発動させて誰にも気づかれないとでも思ったのかしら」 
 アイシャはそう言うと発火事件のあった場所の状況をシミュレートしている画面を眺めている女性警察官の方に目を向けてため息をついた。
「どうした?」 
「これ……」 
 要の問いにアイシャは火の粉で穴だらけになった青い振袖の袖を翻して見せる。
「緊急避難的処置だからな。あとで弁償してやるよ」 
 ため息交じりの要の一言。アイシャはいかにもやって見せたと言うような表情で誠に笑顔を向ける。
「まあ……けが人も無かったわけだからな。あとは所轄の警察の資料が上がってくるのを待とうか」 
 そう言うとカウラはそのまま指揮車の入り口に手をかける。
「カウラ……」 
「なんだ?」 
 要の顔を見てカウラは煤で汚れた頬を拭いながら振り向いた。
「誠の家……ウォッカはあるか?」 
「は?」 
 カウラもアイシャも誠も突然の要の言葉に呆然とする。
「いやあ、強い酒をきゅっと飲みたい気分でさあ……」 
「父は日本酒より強い酒は飲みません!母は酒を飲みません!」 
「ああ……そう……」 
 本当に力なく、まるで抜け殻のようになりながら要はそれを見守るカウラ達に見送られながらよたよたと指揮車を後にした。



 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 2


「結局こうなるのね……」 
 アイシャはそう言いながら不機嫌そうに紺色の長い髪を梳かす。東都の下町の誠の実家で破れた晴れ着をもったいないと丁寧にたたむ誠の母薫。無事でよかったと笑っている父誠一。彼等と今回の火事の鎮火にいかに自分が必要だったかを大げさに話すアイシャ。そんなところに誠達と同じ司法局の直属捜査部署である法術特捜本部長の嵯峨茜警視正から今回の事件の目撃者として警察署に出頭するようにとの連絡があり、とりあえず時間をもらってシャワーと着替えだけを済ませてこうして東和東都南城警察署の取調室へとたどり着いていた。
「あんなに泣いてたら取調べにならないだろうが・・・」 
 要はそう言いながらマジックミラーの向こうを眺めていた。そこには振袖姿の少女が取り調べの警察官の前で知らないと連呼しながら泣きじゃくっている。
「でも彼女以外パイロキネシス能力の適正のある人物はいなかったんだから……ああ、要ちゃんが口から火を吹いたと言う線もあるわね」 
 一番ここに来るまでのカウラのスポーツカーの車内で愚痴を垂れていたアイシャが挑発するようにつぶやいた。思わず要がにらみつけるがアイシャは手にしたコーヒーの香りを楽しみながらまるで気にしていないという表情で歩き始めてしまう。取調室ではほとんど質問を諦めたという表情の捜査官を見ながらカウラも仕方なくコーヒーをすすった。
「拘束した者の他にもパイロキネシストいる可能性はあるな。それと適性検査自体もまだ技術的に確立されたものではないからな。資料に無くても思念発火が出来る人物がいた可能性もある。西園寺、法術適正のあった連中は一通り身元は確認したんだろ?」 
「そりゃあまあ……でも能力適正が低い人物は簡易検査じゃ引っかからないからねえ。あの程度の火事を起こすくらいの力なら他の適正で引っかかった奴の犯行の可能性も捨てきれねえな」 
 要はそう言うと珍しくおとなしく手持ちの携帯端末から伸びるコードを自分の首筋のジャックに挿して情報収集を開始した。
「感覚的には……この子じゃないと思うんですけど……」
 誠は直感的にそう口にしていた。要、カウラ、アイシャの顔が一斉にぼんやりと思いをつぶやいただけの誠の顔を射抜く。 
「は?『あんなかわいい女の子が犯罪者のはずは無いです!』とか言い出すつもりか?ばーか」 
 要の馬鹿にしたような口調に誠は何も言えずに自分のために入れてもらったコーヒーを手に取った。
「そう言う意味じゃないですよ!だって法術適正反応が出るといろいろ面倒な話を聞かされるらしいじゃないですか」
「そうね、まず最初に市役所での法術発動封印の誓約書を書かされて、そのあと警察署で法術に関する諸法の講習。それに能力ごとに消防署だとか陸運局だとかに提出する書類があって……」 
 誠の話を継ぐアイシャ。その言葉を聞きながら再び誠は取調室の中を見た。相変わらず少女は泣くばかりで事情聴取はまるで進んでいない。
「法術の発動については何も知らない……気がついたら火が目の前に広がっていた……となると」 
「能力の暴走の線が有力ですわね」 
 後ろから声をかけられて驚いて座っていた机から飛び降りる要。そして彼女の後ろには見慣れた東都警察の制服を着た女性が腕組みをして立っていた。
「今頃出てきやがって……人を呼び出して何してた?デートか?」 
「いいえ、要さんとは違って昨日から徹夜ですの。法術に関する捜査マニュアル。すぐにでも必要になるのになかなか思うように行きませんわね」 
 上品そうにそう言うとそのまま取調室が見えるガラス越しまでやってきて中を覗き込む女性。