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遼州戦記 保安隊日乗 6

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 要はそう言うと今度はポケットからコードを取り出し自分の後頭部のジャックに差し込んで端末とつながる。意識が途切れたように首が折られるがそのまま画面には検索モードの様子が映っていた。そしてそれを見てカウラが手を叩いた。
「そうか。法術師が部屋を借りる。大家も限られるしうまくいけばどこかで足が付くか」 
「そう?検査なんて東和は任意じゃないの。法術適正を受けている人間が犯人と決まったわけじゃないでしょ?」 
 アイシャは半分期待はしていないと言う感じだが、その視線は明らかに要の検索の模様を眺めているものだった。
「法術適正を受けている人間の犯行だと僕は思いますよ。人の能力を横取りして発動させるんですから。法術に興味のない人物の犯行だとはとても思えないですから」
「でも最近東都の都心からこちらに引っ越してきた人間なんて山ほどいるじゃない。いちいち調べるの?」 
「しかたねえだろ……235世帯か……所帯持ちは外しても156件」 
 要の言葉にうんざりしたと言うような顔のアイシャ。だが彼女の肩をカウラが叩いた。
「何万人と言う豊川市の人口から比べればわずかなものだ。四人で見回れない数じゃない」 
「でもその中に犯人がいると言う保障はあるの?そもそも法術適正検査は匿名で行なわれてるのよ。その156人だって一人も法術師がいないかもしれないじゃない。いたとしても嘘をつかれれば……どうせ捜査令状は下りないんだから」 
 そんな言葉を吐くアイシャをケーブルを首から外した要が哀れむような目で見上げる。
「なによ……要ちゃん」 
「お前。馬鹿だろ」 
「馬鹿は要ちゃんでしょ?」 
 いつもの挑発合戦にうんざりした顔でカウラと誠は見詰め合った。
「アタシ等はこの豊川に犯人が来ていたときに意味があるから出向してきたんだ」 
「そうよ。当然じゃないの」 
「はー……」 
 アイシャはまだ分からないと言うような表情をしていたがその曖昧な顔が突然ゆがんだ。明らかにアイシャも要の言いたいことがよく分かったようだが彼女が要に頭を下げるつもりがないことは誠にもよく分かる。
「その為にわざわざ出向してきたのよ。もしこの町に犯人が転居してきたのならそいつを捕まえなきゃ意味がないんじゃないの」 
「犯罪抑止が最低任務であって、逮捕は私達の仕事の範疇じゃ……」 
「カウラちゃんは黙っていて!」 
 八つ当たりを食らったカウラが口をつぐむ。誠は噴出しそうになりながらいらいらしているアイシャを眺めていた。
「なんだよ。別に戸別訪問をしようというわけじゃないんだ。すべての転居に関わった不動産屋を訪ねて回れば自然と犯人のめぼしはつく。容疑者を限定できればそいつをはっていれば事件にたどり着く。そしてそこを現行犯逮捕ってシナリオだ。なんでそんな簡単なことが分からねえかなあ」 
「そんな……相手の不動産屋さんはド素人よ。犯人らしい人物かどうかなんて分かるわけ無いじゃないの。それに一応不動産業者も個人のプライバシーに関することについては……」 
 そう言いながらアイシャは頭を掻いた。元々そう言う任意の捜査においてはかなり高圧的に対応して結果を残すのが得意な要である。プライバシーとか守秘義務などという一般社会の常識は要の捜査にはありえなかった。それに他に何か捜査の方法があるのかと要に聞かれれば思いつく方法はアイシャには無かった。
「おう、抗議するんだろ?さっさと言えよ」 
「むー……」 
 膨れるアイシャだが、カウラの携帯端末が着信を注げたことで誠達の興味はそちらに移った。
「はい、ベルガーですが」 
 端末に出たカウラ。要は卓上の画面を操作して相手の画面を映し出す。そこには先日この部屋に誠達を押し込めた杉田という刑事の顔があった。
「今度はパイロキネシス暴走です。場所は……」 
 誠達は顔を見合わせた。捜査の手がかりを探す段階は過ぎていた。
「とりあえず文句は後だ、現場に行くぞ」 
 要はそう言うと椅子に掛けていた制服の上着に手を伸ばす。アイシャも渋々自分の机の上の帽子に手を伸ばした。
「事態は動いているんだ。私達の想像以上に早くな」 
 端末を終了して立ち上がるカウラの言葉を聞いて改めて自分達が明らかに後手に回っている事実に気づきながら誠は飛び出していく要の背中を追って部屋を飛び出した。



 低殺傷火器(ローリーサルウェポン) 16


「怪我人も無し。いいことじゃねえか」 
 全焼した廃屋を見上げながら要がつぶやいた。すでに能力暴走を起こしてパニック状態に陥ったパイロキネシス能力者の豊川商業高校の女子生徒は警察署へ向かうパトカーに乗せられて消えていた。
 あたりは消防隊員と鑑識のメンバーが焼け焦げた木造住宅の梁を見上げて作業を続けていた。
「これでもう例の犯人は豊川市に拠点を移したと考えるべきかな……」 
「カウラちゃんが珍しいわね。ちょっと結論急ぎすぎじゃないの?」 
「まあ私も『近藤事件』以降は考え方も変わったからな。法術に関してはどんどん先回りして考えない……と被害が大きくなってからでは遅いんだ」 
 黄色いテープを持ち上げて現場に入るカウラ。アイシャや要、誠もその後に続く。焦げ臭い香りが辺りにに漂っていた。現場の鑑識の責任者らしい髭面の捜査官がカウラに敬礼をした。カウラ達も敬礼をしながら辺りを見回した。
「ああ、保安隊さんからの出向している方達ですか」 
「よくご存知で」
 鑑識の男の笑み。専門技術者らしく署長はじめとする豊川署の警察官僚の含むところのある笑みとは違う頼りにしていると言っているような笑顔。久しぶりに誠も警察の人間の言葉をそのまま信じてみることができるような気分になっていた。
 だがすぐにその顔は周りの生暖かい目で見る刑事達と同じ色に染まり始める。組織の壁はやはりどこでもとてつもなく高い。 
「まあ……うちは狭いですから……それに噂はかねがね」 
 含むところがあるというような笑みにカウラもあわせて乾いた笑顔を浮かべた。
「連れていかれた女の子が……いわゆる『被害者』と言う奴ですか?」 
 誠の言葉に頷きながら鑑識の男は辺りを見回した。彼が口を開くより早く、現場の責任者らしい頭頂部まで禿げ上がった髪が目立つ定年間近と言う風な感じの巡査部長は誠の階級章を見ながら頭を掻きながら前に出てきた。その姿を見て鑑識の髭の男はそのまま先ほどまで続けていた燃えた廃屋の前の道路に散らばった家の破片を集める作業を再開した。
 巡査部長は余計なことを鑑識が言わなかったかと威圧するような視線で髭の男を見送ったあと明らかに面倒な相手をあしらうような口調で説明を始めた。
「今のところパイロキネシストの能力を使用しての放火と考えるのが妥当ですな。事実、我々が探し出した宅配便の運転手の証言でこの道路から見える壁が一気に発火したと言うことが分かりましてね。物理的にそう言う燃やし方をすれば出る科学物質の反応もないですから……すぐに非常線を張りましたから他にパイロキネシストがいたとは考えられません。まず間違いなく彼女のパイロキネシス能力が利用されてこの建物が燃えたのは事実だと……」