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ラベンダー
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走れキャトル!(1)~魔術師 浅野俊介 第0章~

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走れキャトル!(1)



キジ模様の子猫「キャトル」は、タレント事務所「相澤プロダクション」の専務室で女子研究生達にもみくちゃにされていた。
普通、猫は触られ過ぎるのを嫌がるのだが、キャトルはじっと堪えているようだ。

専務の北条(きたじょう)菜々子が苦笑しながら、そんな女子たちに言った。

「もうすぐ、ボイスレッスンの時間よ。」
「はぁい」

女子たちが、名残惜しそうにキャトルを籠に入れた。
解放されたキャトルは自分の体を舐め、毛並みを整え始めた。

女子達は菜々子に挨拶をして、部屋を出て行った。
やがて、キャトルはふかふかの毛布の中に体をうずめるようにして丸くなった。

「おとなしい猫ですね。」

マネージャーが言った。

「そうねぇ。お腹が空いたらうるさくなるけど。」

菜々子がそう言って笑った。

「もう通常食なんですか?」
「ええ、もういいみたい。圭一君が連れて帰ってからすぐ缶づめ食べさせたら、バクバク食べたからびっくりしちゃった。」
「よほどお腹が空いていたんですね。」
「それにいきなり寝るのよ。走っていたかと思ったらパタン!って倒れて。びっくりして抱きあげたら、寝てるの。」

マネージャーが笑った。

「それはびっくりしますよね。」
「死んだのかと思ったわ。」

菜々子が笑って、机の横にあるカゴの中を覗いた。

「…撫でられ続けて、疲れ果てたみたいね。よく寝てるわ。」

菜々子がそう言った時、ノックの音がした。

「はい?」
「圭一です。」
「あら、どうぞ。」

北条(きたじょう)圭一が入ってきた。
缶詰や猫じゃらしやトイレ用の砂の入った袋を両手で抱えている。

「ありがとう。圭一君。」
「沢原先生が車を出してくれて…」
「あら、明良(あきら)さんは?」
「父さんは、今日出張ですよ。…朝言ってたでしょ?」
「…聞いてなかった…」
「もう~…父さん、そのうちグレちゃいますよ。」

圭一の言葉に、マネージャーが笑った。

「そうね。気をつけなきゃ。」

菜々子が肩をすくめて言った。

「キャトル…寝てるのか…」

圭一が残念そうに、籠を覗いて言った。

「さっきまで、研究生の女の子達にもみくちゃにされてたのよ。」
「それは疲れるでしょうね。」

圭一は名残惜しそうに立ち上がった。

「また来ます。」
「ええ。」

菜々子は圭一に手を振った。圭一も振り返して、ドアを出て行った。

突然、キャトルが目を覚まして顔を上げた。

「にゃぁ」

その鳴き声を聞いて、菜々子が「あら」と籠を覗き込んだ。

「もう起きたの?キャトル。」

キャトルは菜々子に向かって、鳴き続けている。

「お腹すいたのかしら?ちょっと待ってね。今、あげるわ。」

キャトルはドアに向かって走り出し、ドアをひっかき始めた。

「キャトル!?…どうしたの?」
「外に出たいんでしょうか…」
「…でも…」

キャトルの鳴き声が何か異常な気がした菜々子は、ドアを開けてみた。
するとキャトルが廊下を走った。
そして、エレベーターを待っていた圭一の背中に飛びついた。

「うわっ!!」

圭一が驚いて、背中から肩によじ登ったキャトルの頭を撫でた。

「キャトル、どうしたの?追いかけて来てくれたの?」

圭一が嬉しそうにそう言って、キャトルを肩から下ろし抱いた。
キャトルが圭一に向かって鳴き続けている。

「?…どうしたの?キャトル…」

何か鳴き方が尋常じゃないような気がした。

「!…」

圭一はとっさに携帯を取り出した。
そして、出張に出ている明良に電話をした。

5コール程して、明良が電話に出た。

『圭一?どうしたんだ?』
「父さん、今どこ?」
『今?車でそっちへ向かって…』

その時、電話の向こうから「ドーン!」という大きな音がした。

「!!父さんっ!?」
『…大変だ…』

明良の動揺した声が返ってきた。
圭一はほっとしたが「どうしたの!?」と言った。

『今、トラックの追突事故が…。…救出手伝うから、後で電話する!』
「父さんっ!!」

電話が切られた。

……

圭一は、同期生の木下雄一とのユニット「First」の新曲のため、ダンスレッスン室で振り付けの稽古をしていた。

「…ごめん…」

圭一は途中で踊るのをやめ、鏡の前のバーにかけてあるタオルを取り、汗を拭いた。

「…副社長…心配やな。」

雄一も踊るのをやめ、音楽を止めた。

「…ん…。救出手伝う…言うてたから、大丈夫やとは思うんやけど…」
「救出手伝うってか。…副社長やなぁ…。」

2人は汗を拭きながら床に座った。圭一が考え込むように言った。

「もしキャトルが騒がなかったら…父さん…追突事故に巻き込まれてたかもしれへん。」
「猫は「魔除け」言うもんな。」
「えっ!?ほんま?」

雄一の言葉に、圭一が驚いた。

「知らんかった?猫は悪霊とか払ってくれる…いうて、昔から言われてんねん。よく黒猫とか死の遣いやとか言うけど、実は逆でご主人様を守ってくれるらしいで。」
「じゃぁ…キャトルは…早速父さんを助けてくれたんかな…。」
「かもな。ただ、キャトルが鳴いただけで気がついた圭一もすごいわ。」
「…なんか、キャトルの必死に鳴いてる顔見てたら、父さんの顔が浮かんだんや。…それで…」
「へえー」

その時、ビルにアナウンスが入った。

「北条圭一君、専務室まで。」

圭一がはっと顔を上げた。雄一がほっとした表情で言った。

「副社長帰ってきたんちゃうん?」
「うん!行ってくる!」
「今日、この後レッスンどうすんねん。」
「ごめん。今日は無理!」

雄一は「わかった」と言って笑った。
圭一は雄一に手を合わせて謝りながら、レッスン室を出て行った。

……

「圭一から電話がかかってきたから、車を路肩に寄せて電話に出て…ほんとすぐだった。…あのままあの車線走ってたら、私も巻き込まれてたな。」

専務室のソファーで、明良は膝で丸くなっているキャトルの体を撫でながら言った。
キャトルは気持ちよさそうに目を閉じている。

「…助けてくれたのかなぁ…」

向かいのソファーに座っている菜々子が「きっとそうよ。」と言った。
菜々子が明良に言った。

「ニュースで見たら、死亡者が出たって…」
「ん。私が駆け寄った時は追突した方のトラック運転手はだめだったように思うよ。トラックのタイヤに乗って、運転席の窓を叩いてみたが反応がなかったからな。」
「もう…明良さんも危ないことしないでよ。」
「…ごめん…」

その時、膝で目を閉じていたキャトルが顔を上げて「にゃあ」と鳴いた。

「はは…。謝ることないって言ってるよ。」
「まさか!私に同意してくれてるのよ!ねぇ、キャトル?」

キャトルはまた丸くなって寝てしまった。

「…不思議な子だなぁ…。」

明良が微笑みながら言った。

ドアがノックされた。

「はい?」
「圭一です!」
「入って。」

圭一が部屋へ入ってきた。

「父さん!…よかった無事で。」
「心配かけたね。…圭一が電話してくれたおかげで無事だったよ。」
「教えたのはキャトルだよ。」

明良の横に圭一が座ると、キャトルは一旦明良の膝の上で伸びをしてから、圭一の膝に移った。

「あらあら…浮気者ね。」