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ラベンダー
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走れキャトル!(1)~魔術師 浅野俊介 第0章~

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秋本は電話を切り、すぐに沢原に電話をした。

……

沢原の車が秋本のアパートの前についた時、タクシーが後ろに停まり、マリエが降りてきた。

「マリエ!」
「菜々子専務から電話があって…私も一緒に探す!…お願い…乗せて!」

秋本は迷っていたが、うなずいた。

……

圭一が悩んだ時によく行くという橋に行ってみたが、圭一はいなかった。

「後はどこがある?」

沢原がいらいらしたように言った。秋本は首を振った。

「全くわからない…」

マリエが目を真っ赤にしたまま、後部席に座り込んでいる。一番責任を感じているのは彼女だろう。

「もしかして…」

秋本がふと思い付いた。

「どこだ!?」
「プロダクションの屋上…」

その秋本の言葉に、沢原がギクリとした顔をした。

……

プロダクションについた。
警備員に説明して、エレベーターを動かしてもらった。

秋本達はエレベーターに乗り、最上階で降りた。そして屋上に続く階段を上がった。

鉄製の扉をゆっくり開き、屋上へ出た。そして、屋上を見渡した。

圭一は、いた。
それも柵の外へ出てしゃがんでいる。

「!!圭一君!」
「ばか!呼び掛けたら…」

沢原が慌てて秋本を押さえた。
圭一がこちらを向いた。

「圭一君!早まるな!」

沢原が言った。マリエが両手を口に当てて立ち尽くしている。

「来ないで!」

圭一が言った。

「圭一君…」

秋本はどうしたらいいかわからない。もしここで圭一が飛び降りたりしたら…。

「誰も来ないで下さい。でないと…」
「わかった!行かないから早まるな!」

沢原がそう言ったが、圭一がしゃがんだまま下を見た。そして体を乗り出した。

「圭一君!やめろ!」

思わず秋本が駆け寄ろうとした。

「つかまえた!」

圭一の声がした。

「!?」
「猫!」

圭一が言った。

「?猫?」

圭一が立ち上がった。子猫を胸に抱いている。

「!!」

秋本達はしばらく立ち尽くした。

「危なかったんですよ!沢原先生の声聞いて、この子、飛び降りかけて…」

圭一は柵の向こうから、子猫を差し出した。

「ちょっと、誰かこの子猫受け取って…」

マリエが涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら駆け寄り、子猫を受け取った。

「すいません」

圭一はそうマリエに言うと柵に足をかけて飛び上がり、マリエと一緒に駆け寄っていた秋本の前に飛び降りた。

「よかったー。危なかったんですよ…。猫でもこの高さから落ちたら…」
「圭一!!」

秋本は思わず呼び捨てで怒鳴った。

「…はい…」
「どれだけ心配したと思ってるんだ!!」
「…ごめんなさい…」

圭一は秋本の前で下を向いている。

「副社長も菜々子専務もお前が帰らないから心配して、俺達に電話してきたんだぞ!」

それをきいた沢原が慌てて携帯を取り出し、明良に電話をかけた。
マリエは泣きじゃくりながら子猫を撫でている。子猫は気持ちよさそうに、マリエの胸で目を閉じていた。

「ずっとここにいるつもりだったのか?」

秋本の言葉に、圭一はうなずいた。

「独りで…いろいろ考えているうちにいつの間にか、プロダクションが閉まる時間が過ぎていたんです。…このまま一晩すごしてもいいかなって思っていたら…子猫の声が聞こえて…近寄ったら逃げるし…離れたら鳴くしで…」

秋本はため息をついた。

「お前が飛び降りるかと思ったんだぞ…。」
「ごめんなさい…」

秋本が圭一の頭を抱いた。

「心臓が止まるかと思った…」

言って秋本が泣き出した。

「秋本さん…!」
「勘弁してくれよ…ほんと…。お前死ぬかと思った…。」
「ごめんなさい…」

沢原が近づいて来て、秋本と圭一の肩に手を乗せた。

「また4人で…「quatre(キャトル)」続けてくれるか?」

秋本が体を離して圭一を見た。圭一が沢原にうなずいた。
沢原はマリエを手招きした。マリエが遠慮がちに近寄ると、沢原がマリエの体を引き寄せ圭一の体に押し付けた。
マリエは子猫を抱いたまま、圭一に抱きしめられた。
マリエが涙声で言った

「ごめんね。ケイイチ…」

圭一がマリエを抱いたまま、首を振った。

……

圭一に助けられた子猫は「キャトル」と名付けられ、北条家で飼われることになった。
朝早くに病院に連れて行き、注射を打ってもらった。キャトルはキジ猫のメスだ。一番メロメロなのは菜々子だった。

「どうやって、あんなところまで上がったのかしら…」

リビングのソファーでキャトルを撫でながら、菜々子が言った。
隣で座って見ていた圭一が言った。

「非常階段を上がって行ったんでしょう。…親とはぐれて必死に探したんじゃないかとお医者様が言ってました。」
「まぁ…。可哀相に…。キャトル、もう大丈夫でちゅからねー!」

菜々子がキャトルを抱き上げ、頬ずりした。
圭一がその菜々子に笑った。

「さ、母さん…もうすぐ車が来ますから、キャトル、プロダクションに連れて行く準備しなきゃ。」
「そうね!…今日仕事になるかしら…」
「母さん!もう…。」

圭一が立ち上がって笑った。

「父さんもほったらかしにするから、寂しそうでしたよ。さっき見送らなかったでしょう。」
「!!やだ!…私すっかり!」

菜々子が両手で口を押さえて言った。圭一が懇願するように菜々子に言った。

「父さんが出張から帰ってきたら、副社長室に行ってキスしてあげて下さい。…ほんっとに寂しそうでしたから!」
「もう…明良さんって子どもみたいなところあるんだから…。」

圭一が苦笑した。