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ラベンダー
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走れキャトル!(1)~魔術師 浅野俊介 第0章~

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圭一と子猫キャトルの出会い



タレント事務所『相澤プロダクション』常務の秋本優(ゆう)は、最近付き合い始めたという、フランス人と日本人のハーフのアイドル「マリエ」とプロダクション副社長の養子「北条(きたじょう)圭一」の様子がおかしいことに気づいていた。
ここ1週間、食堂で一緒に食事しているところを見ない。同じ時間に食堂にいても、離れたところで食事をしている。最近圭一は決まって窓際の席にいる。
今日も食堂に行ってみると、圭一が窓際にいた。そしてマリエは、独りでテーブルで食べていた。

秋本はマリエの方へ行った。
マリエの方が話してくれそうな気がしたのである。

「!秋本常務…」

マリエが立ち上がって頭を下げた。

「俺にはそういうのいいから」

秋本はそう言って座った。マリエも座る。

「最近、どうしたんだ?圭一君と喧嘩でもしたのか?」

そう秋本が言うと、マリエが目を見開いて動かなくなった。

「どうした?」
「私がケイイチを傷つけたの…」
「!何をしたんだ?」
「ここでは言えない…」
「…わかった…後で俺の部屋来てくれ。」

マリエがうなずいた。

……

マリエが秋本の部屋に来た。その時、同じプロダクションの常務「沢原亮」もいた。
今は休止期間だが、圭一、マリエ、秋本、沢原4人で組んでいる、ジャズユニット「quatre(キャトル)」の存続に拘わるかも知れないと、マリエの話を聞きに来たのだ。
「quatre(キャトル)」とはフランス語で「4」を表わす。必ず4人でという思いで、フランス人の血を引くマリエがつけたユニット名だった。だから、この2人に何かあれば「quatre(キャトル)」は解散しなければならない。

「マリエ…何があった?」

秋本が向かいに座っているマリエに聞いた。

「私…ケイイチの前の彼女のことを忘れさせたくて…」
「…前の彼女?…」

秋本がそう言うと、マリエがうなずいた。

「ケイイチにつきあって欲しい…って言ったのは、私の方なの…。でも、ケイイチ…前の彼女の事がまだ忘れられないからってずっと言ってて…それでもいいって私が言って…つきあうことになったんだけど…」
「ん…」
「でもやっぱり、忘れさせたくて…先週、思い切って彼女と何があったのか聞いたの。そしたら…ケイイチ…18歳になったばかりの時に、自分のせいで彼女と自分の間にできた赤ちゃんを堕ろされたんだって…」
「!?」

秋本と沢原が驚いた。

「自分のせいで…って…どうして…?」
「ケイイチ…前科持っていて…」

秋本が息を呑んだ。

「人を殺したって…」
「……!」
「そのことを向こうの親に調べられて…ケイイチの知らないうちに…赤ちゃん堕ろされてたって…。」

しばらく沈黙が訪れた。
秋本はふと我に返って、マリエに言った。

「マリエ…圭一君に何をしたんだ?」

マリエは下向き加減に、涙ぐんで答えた。

「…私…ケイイチが「人を殺した」って言ったとたん…体が震えてしまって…。急にケイイチが怖い人に見えたの…」
「…それで…?」
「部屋を飛び出してしまったの…」
「!!」

秋本がうなだれた。沢原が何も言えず黙っている。

「後になって考えたら…ケイイチが意味もなく人を殺すわけないって思って…謝りたいけど、電話もメールも返って来なくて…でも…顔を見るのも辛くて…」
「俺が圭一君に話すよ。圭一君の前科のことも調べてみる。」

秋本が言った。

……

秋本は、プロダクション副社長であり圭一の養父である、明良(あきら)に直接聞いてみた。

明良はため息をついてから言った。

「…残念ながら、殺人の前科に関しては本当なんだ」
「!!」

秋本は衝撃を受けた。

「…でも、知り合いの刑事さんにもお願いして調べてみたら…圭一は殺していなかった。」
「…どういうことですか?」
「圭一をかばって、誤って相手を殺してしまった友人の身代わりに、圭一が罪を被ったんだ。」
「…!!」
「ただ記録には、圭一が前科を持ったものとして残ってしまう。」
「…罪を被るなんて…」

思わず呟く秋本に、明良もうなずいてから言った。

「その為に…圭一は親に勘当されたんだよ。」
「……」

秋本は何も言葉が出なかった。

……

秋本は副社長室を出た。
勘当されただけじゃない。好きな女性との子どもも堕ろされ、それでも圭一は真実を秘めて生きてきたのだと思うと、秋本の胸が強く締めつけられるように痛んだ。

秋本はマリエに電話をし真実を伝えた。マリエは一層自分の取った態度を悔やみ「もうケイイチと仕事もできない」と電話の向こうで泣いた。

……

その日の夕方-

圭一が窓際でコーヒーを飲んでいた。秋本が横に立った。

「圭一君、おはよう」
「!おはようございます。」
「今から、俺の部屋来てくれないかな…」

圭一は、少し緊張した顔をしたが、「わかりました」と言って立ち上がった。

……

「実はマリエから話を聞いてね。」

秋本はプロダクションの自室で、向かいにいる圭一にストレートに言った。

「!」
「君の前科のことも聞いた。…僕は信じられなくて、副社長に聞きにいったんだ。」
「……」
「全部、話を聞いた。君が無実だった事も。」

圭一が涙ぐむ様子を見せた。

「マリエは自分の取ってしまった態度を悔やんでる。後になって、君が意味もなく人を殺す訳がないと思ったそうだ。」
「……」
「今は君が無実だったことを知っている。だから…電話でもメールでもいいから、返事してやってくれないか?」

圭一は下を向いた。

「怒ってるわけじゃないんです。」

圭一が言った。

「じゃあ、どうして…?」
「マリエ先輩の怯えた目が…」
「!!」
「どうしても…頭から離れなくて…」

圭一の目から涙がこぼれ落ちた。

「……」
「…僕は…もう…今までのようには…先輩と付き合えない…。仕事も…無理です…」

秋本は何も言えなかった。

……

秋本から話を聞いた沢原が、ため息をついた。

「罪を被るなんて圭一君らしいが…。本人は何もしていないのに、ひどすぎる話だな。副社長に出会えたことが唯一の救いだったわけだ。」

秋本はうなずいた。

「しかし、俺たちのユニットはもうだめだな…」

秋本が沢原を見た。

「根が深すぎる。まだ圭一君が怒っていた方がましだった。」

秋本がうなずいた。

「でもマリエの気持ちもわかるよ。いきなり人を殺したことがあるなんて言われて、平常心を保てる人間なんてそうはいないぞ。」
「そうだな…」
「マリエの反応は仕方のなかったことなんだ…」
「……」
「でも…もうどうしようもないだろう…。圭一君もマリエも可哀相だが…「quatre(キャトル)」は解散だ…明日、副社長に報告しよう。」

沢原の決断に、秋本は頷くしかなかった。

……

その夜-

「圭一君が帰ってない!?」

秋本が言った。母、菜々子からの電話だった。

「私のところには来ていません。亮の家には、圭一君は行ったことがないので行くことはないと思いますが…。…とにかく亮に連絡して、車で外を探します。専務達は家にいてください。帰るかもしれないから…。はい!見つかり次第連絡します!」