夢問人
その様子を少し離れた場所から、そっと見ていた青年は、少年に声を掛けるのを止めた。今、自分が出て行ったら、少年の立場を悪くさせる、そう思った。青年は布袋を、そっと孤児院の前に置いた。そして、早々とその場を去った。立ち去る事でしか、あの薬草の恩を返す事ができなかった。
「…やはり、来るべきでは、なかったな…」
青年は、否定的に思う事で、先程の出来事を忘れようとしていた。
期待は絶望に変わり、悲しみに変わっていく。
それは、予想通りの出来事のはずだった。
…だったのだが…。
何故、幾度となく淡い期待を抱いてしまうのか。
何故、こんなにも未だ心は悲鳴をあげるのだろう。
青年は、初めて少年と会ったあの時、驚いたのだ。
まさか、今さら”勇者”などと呼ばれるとは思ってもみなかった。
全てを捨て逃げ、世間と決別した自分を、あんな素直に勇者などと呼んでくれるとは想像もしていなかったのだ。
迷いと戸惑いの中に、ほんの少し嬉しさが湧くのを感じていたのだ。
―未だ自分を慕ってくれている人間がいるなんて―
青年は元来た道を引き返した。
―もう、ここに来ることはない―
そう幾度目かの誓いを、青年は自分に言い聞かせながら。
彼は、心がキリキリと裂けていくような、そんな音を聞いた気がした。