夢問人
数日後。
青年は、久々に街にやって来ていた。相変わらずの活気を見せるこの街に、訪れたのは久々だった。青年は、自分の素性がばれない様に、長い古びた布を頭から被っていた。その姿は、不審者を思わせるのに十分な格好だった。そんな身なりをした青年を、避けるかのように街人は歩いた。あからさまに自分を裂けて歩く人々に青年は、益々愛想を尽かした。青年は足早に歩いた。
―長居するつもりは、ない―
―この布袋を少年に届けるだけだ―
そう、言い聞かせていた。
―自分が守った街。
―自分を王と認めた街―
―そして、自分を拒絶した街―
たくさんの思いが込み上げた。と、同時に吐き気がした。活気付いた街とは裏腹に、青年の心はひどく重かった。
活気ある商店街を抜け、人ごみから解放された裏路地を通り、殺風景な街外れまで歩くと、ようやく孤児院に着いた。その建物を目にすると、青年はほっと一息をついた。目的地にたどり着いた安堵感と、あの少年に会える事が何となく嬉しかった。
―先日の薬の詫びを早く伝えたい―
その思いだけが、あの吐き気のする中、青年の足取りを弾ませていたのかもしれない。青年はそっと孤児院を覗き込むと、古い石造りの建物の前に子供たちが数人いた。その中に、少年もいた。
「…おい…」
と少年を呼びかけようとした時、子供たちの言い争う声が聞こえた。
「お前まだ勇者、勇者とか言っていんのかよ」
少年と暮らす同じ孤児院の子供たちが少年を馬鹿にしていた。
「だったら、何だっていうんだよ」
少年は睨みつけた。
「あの勇者な、街外れで乞食みたいに暮らしているんだってな。王様の仕事をサボって、乞食しているんだぜ。そんな”よわむし”が好きなのかよー! 」
子供たちは馬鹿にした様な笑い方で、少年をからかった。
「…くっ…」
少年は先日の青年の姿を見て、正直戸惑っていた。
焦がれに焦がれて、夢にまでみた勇者。
その勇者に手を振り払われた事。
それが、少年の心を揺らがせていた。少年は何も言い返せなかった。下を向き、震えながら自分の拳を握るしかできなかった。あれは、子供の心を揺るがせるには、十分な出来事だったのだ。