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夢問人

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―これが、あの勇者様…? ―
青年の顔は青ざめ、頬はこけ、目は死んだ魚のように視点が合っていないように思えた。顎
から無造作に伸びた無精ひげが、青年をよりいっそう老けさせていた。
少年がいつか目にした、あのパレードの英雄はそこにはなかった。ただの疲れ果てた老人のような男がいた。
 その瞬間、何かに取り憑かれたかの様に、少年は背負っていた薬草の入った布袋から、薬草を急いで取り出すと、腰にぶら下げていた鉄製の器具を使い、薬草と薬草を吟味し、調合をし始めた。その一連の様を青年は不思議そうに眺めていた。少年は汗をかきながら、一心不乱に器具に向かって薬草を合わせ、練り、小さく丸めた。
少しすると、少年は満面の笑みで青年に調合した薬を差し出した。
「はい! 勇者様、疲れているんだろう? これを飲めば、すぐによくなるさ! 」
 少年は自分の不安を掻き消すかのように、そう自分にも言い聞かせた。
 少年の小さな手には溢れんばかりの薬があった。青年は驚いたように、その薬を見た。
「俺、勇者様を尊敬しているんだ!いつか勇者様に俺の作った薬を飲んでほしくて、いっぱい勉強したんだぜ! 」
少年は誇らしげに、小さな手を更に前へと差し出す。
「…お前…」
 少年の差し出された腕に、青年は少し後ずさりをした。少年の輝いた瞳が、青年を怯えさせた。
「…やめ…ろ」
「遠慮なく使ってくれよ! 」
そう少年が一歩踏み出した瞬間…
パンッ!
青年は薬ごと少年の手を払いのけた。一瞬、少年は何が起こったか理解できずにいた。
ばらばらに散った薬が、日の光を浴びてキラキラ輝き、そして地面へゆっくりと落ちていった。
「…あ…」
ようやく事態を飲み込めた少年は、散らばった薬の元へ駆け寄った。
「な、何するんだよ! 」
少年の心は一瞬怒りに満ち、すぐさま悲しみに変わった。そして理解した。自分は拒絶されたのだと。
「…くっ…! 」
少年は一目散に、もと来た道を引き返した。悲しみのあまり、もう、少年はその場にいる事
ができなくなっていた。
―どうして、どうして―
―あんなに尊敬していた勇者。街の噂は、ただの噂と思っていたのに―

少年の走り去った跡には、涙が滲んでいた。

作品名:夢問人 作家名:AS