夢問人
ある日、少年はいつものように薬草を採集するために、街外れの見晴らしのいい裏山に来ていた。
裏山は風の通りも良く、水も奇麗なため、少年が求める薬草が豊富に生えていた。そんなに深い森でもないので、子供でも迷わずに山中を探しまわれた。木々の間からは木漏れ日が降りそそぎ、鳥たちのさえずりが聞こえてくる。遠くで水のせせらぎが耳に流れてくる。
魔王がいなくなってからは、気味の悪い怪物も徘徊しなくなり、以前は危険だったこの場所へも自由に行き来できるようになっていた。少年にとってこの山は、宝物だった。そして、この場所を提供してくれた勇者も、同様に。
少年は、その年齢で抱えるには少々大きすぎる程の布袋を背負っていた。しかし、そんな重さなど苦にはならなかった。中身は溢れんばかりの薬草と、少年の夢が詰まっていたのだから。
「あれ? 」
少年は、数十メートル先に、白い煙が立ち上っているのを見つけた。山火事などではなく、明らかに人為的に起こした、白く細長い煙だった。
「…人? 誰か住んでいたかな? 」
少年は好奇心のままに煙に近づいていった。生い茂る草を掻き分ける。そこには道と呼べる道はなかった。少年の背丈以上の草を掻き分け進むのは容易ではなかったが、天気も良く、まだ森全体が明るかったことと、もしかしてまだ見ぬ薬草とも出会えるかもしれないという好奇心が、少年を動かしていた。
少年の目に、一軒の山小屋が飛び込んできた。小さな木造の山小屋の煙突から、先ほど見た、一筋の煙が上っていた。その小さな小屋の前で、一人の若い男が薪割りをしていた。
パカン。パカン。
リズミカルに薪を割る様から見ると、青年はよほど運動神経が良いのだろう。息を切らす事無く、スムーズに薪割りをこなしていた。よく見ると、青年の腰に少年の身丈以上の細長い剣がぶら下がっている。
少年の鼓動が高鳴った。
「…もしか…して」
少年は、この男に見覚えがあった。あの凱旋パレードの中、自分の両親の仇を討ってくれ
た英雄を一目見ようと、人ごみをかき分けようやく目に映った眩しい姿が、今、重なった。白馬に乗りながら、剣を高く掲げていた、あの猛々しい青年が。
少年はゴクリと生唾を飲み込み、そして、
「勇者様! 」
思わず叫んだ。
「あんた…勇者様だろ! 」
青年の体が、その声にビクッと反応し、動きを止めた。青年が声の方を見ると、顔を真っ赤にし、明らかに興奮していそうな少年がいた。
少年の興奮は高まる。
―間違いない―
―あの人は勇者様だ―
―あの日、あの姿を、この目にしっかりと焼き付けたのだから―
が、その期待に反して、冷たい反応が返ってきた。
「帰ってくれないか? 」
そう言って、青年はすぐさま目を逸らし、薪割りを続けようとした。
「…え? 」
「ここにいるのは、勇者ではない。ただの落ちぶれた男だ」
少年は青年の顔を確認すようと覗き込んだが、青年は顔を合わせようとはしなかった。