続・三匹が行く
何だかんだ言っても最終的にはにっこりと笑ってセンリはそう言った。
「で、出発はいつの予定なんだ?」
続けてそう問いかけられ、チヒロは初めて真顔になって確認を取った。
「目的のない旅なんだぞ」
「ああ」
「危険かも知れないんだぞ」
「だから?」
「……本当に、来るのか?」
どんなに悪態をついて一人で平気だと言っても、やはり不安はあった。一人より二人の方が心強いし、二人の方が楽しいに決まってる。
ただ、危険な事も見返りなどがないことも事実で、そんな旅に本当に付き合ってくれるのかどうかという不安がチヒロの中にあった。
そんな思いで、しかし素直にはそんなことを聞けず、相変わらずの強気な問い掛けをしたチヒロに、センリは簡単明瞭に一言で返した。
「おうよ」
「……だって、お前にも家の都合とか色々あるだろ……?」
そんなチヒロの気遣いに対し、センリは彼よりも少し背の低いチヒロの髪をぐしゃぐしゃと引っ掻き回しながら言う。
「自分から誘ってきたくせに、今更何言ってんだよ」
「だって……」
「それに俺も手合わせの相手がいなくなるとつまんないしな。勝ち逃げされたままってのも悔しいし」
ぐしゃぐしゃになった髪を抑えながらふくれっつらで見上げてくるチヒロに、センリは笑いながら言葉を続ける。
「それに、俺もお前と一緒の旅なら楽しそうだと思うしな」
自然とチヒロの顔に笑みが浮かぶ。
嫌味でも自嘲でもなく、それは本当に心からの素直な笑顔だった。
「で、出発はいつなんだよ?」
「あ、三日後くらいにしようと思ってたんだけど、お前にも準備とかの都合があるだろうから……」
「俺は別に構わないぜ。大した用意もないし。広場の噴水の前で待ち合わせでいいか」
「あ……うん」
「時間はー……明け方でいいか?」
「別にいいけど、何でそんな早い時間なんだ? 昼頃からの出発でも問題ないだろ」
「……明け方か夜中じゃないとちょっとまずいんだよ」
「ふーん」
何か理由があるのだろうセンリの言葉に、しかしチヒロはそれ以上の事を尋ねはしなかった。尋ねる理由もなかったから。
「じゃ、そういうことで」
まるで明日遊びに行くくらいの気持ちでさっさと決まった事に少し呆然としているチヒロを置いて、センリはさっさと椅子から立ちあがり去っていった。