続・三匹が行く
その答えに、チヒロは目に見えて落胆した表情を見せる。
「あ、うん。まあ、駄目なら仕方ないけど……」
彼には彼なりの生活があるし、何より旅は多くの危険を伴う。
チヒロも彼に話を持ち掛けるのに躊躇いがなかったとは言わない。
(やっぱ駄目か……)
哀しげな思いを抱きながら、チヒロは言葉を紡ぐ。
「お前と一緒なら楽しそうだと思ったからさ」
「ちょっと待て。誰が駄目だなんて言った」
「……だってお前さっき、何で俺が、って言ったじゃ……」
「『この俺に』一緒に行ってもらいたいんだろ」
にやにやした笑いでそう言ったセンリに対して、チヒロは生来の負けず嫌いが発動する。
「べっつにー。俺一人だって全然構わないしー」
「あれ? 一人って……イジューインは一緒じゃないのか?」
何気ないセンリの問いに、瞬間チヒロの動きが止まった。
すぐには答えられなかった。
「……いや、イジューインは忙しいから……」
「あ、そっか。今、宮廷魔道士の所に弟子入りしてるんだもんな」
数ヶ月ほど前、イジューインは宮廷魔道士候補の中からめでたく正式に次期宮廷魔道士として選ばれた。その節は、彼らの家で催された宴会にセンリもチヒロに無理矢理連れていかれ、共にイジューインの門出を祝ったのだった。
現在彼は、スイラン王宮の宮廷魔道士の元に弟子入りし、日々修行に励んでいる。
「そうだよな、それじゃあ仕方ないよな。まさか修行を放り出して行くわけにはいかないもんな」
センリは、自分の言った台詞に勝手に納得してうんうんと頷く。
「……うん」
それも確かに理由の一つであったから、チヒロはただ頷く事でそれを肯定した。
チヒロの複雑な思いには気づかず、センリは陽気な口調で言い放つ。
「しょーがねーな。淋しがりやなチヒロちゃんのために、この俺様が特別に一緒に行ってやろうじゃないか!」
「……やっぱ俺、一人で行くわ」
そう返すチヒロの顔は笑っていた。センリがわざとお茶らけてそう言っているのだと分かったから。
「何言ってやがる! 自由気ままな旅! 未知の冒険!! そして極めつけは美女を救う正義の味方!! そんな面白そうな事、お前一人でさせるかよ」
全く脈絡なく力説するセンリに対して、チヒロは苦い笑いを浮かべる。
「……正義の味方って……」
「ま、一人より二人の方が楽しいのは事実だろ」