続・三匹が行く
明らかにからかっている口調でそう言われ、チヒロも思わずむきになる。
イジューインは相変わらずのにこやかな笑顔でそんな二人を見ていた。
「お前こそ……あれ?」
言い返そうとして初めて、チヒロは彼の素性どころか名前すらも知らないことに気づいた。
そんなチヒロの様子を見て彼もその事を察したのか、今更かよといったような表情を見せながらも素直に名を名乗った。
「センリ、だ」
「そっか。俺チヒロ、よろしくな」
……そして、それから二年。
「なあ、センリ」
「何だよ、チヒロ?」
毎度恒例の手合わせの後、近くの食堂で遅い昼食を取りながらチヒロはセンリに話しかけた。
「なあ、旅に出ないか?」
「は? 旅?」
「そ」
面食らった様子のセンリに対して、チヒロは実にあっさりと頷き返した。
「俺さ、三年間くらい旅に出ようと思ってるんだ。やっぱりテンプルナイツに入団する以上は色々と世間も知っとかないといけないだろうしな」
「……お前、本気で入団する気だったのか?」
「ったりまえじゃん」
チヒロのかねてからの夢は、王を守護するものの中でも最高峰の実力を誇るテンプルナイツ(宮廷騎士団)に入団する事だった。
「でも、そのために三年も旅に出るっていうのか? 物好きだな。お前、騎士クラスになら今でも十分なれるだろ」
センリの言う通り、今のチヒロの腕ならば王宮仕えの騎士にならばすぐにでもなれるだろう。
現在まだ弱冠十五歳でありながら、チヒロの腕はそこまで秀でていた。
しかし……
「俺はテンプルナイツがいいんだよ!」
あくまでもチヒロはテンプルナイツにこだわる。
「何で?」
「何でって……やっぱ狙うならトップがいいじゃん」
「……トップって……お前、テンプルナイツの隊長にでもなる気かよ」
「あ、それいいな」
「…………」
チヒロの壮大な夢(野望?)に、センリは呆れた様子で軽く首を振る。
その様子は『なれるもんならなってみな』と暗に語っていた。
そんなセンリの様子を知ってか知らずか、チヒロはいきなり話を戻し彼に問いかけてくる。
「で、行くか?」
「へ?」
「旅に行くか、って聞いてるんだよ」
「俺が? お前と一緒に? 旅に?」
「そ」
「何で俺が?」
面食らった後、センリはきょとんとした様子でそう返してきた。