続・三匹が行く
最初こそプライドを傷つけられたとばかりに勝負を挑んできていたが、五回目くらいからだろうか、彼の目的が次第に変わってきたと感じられるようになったのは。
自分に勝ちたい、もっともっと戦いたい、強くなりたい。
そんな思いで挑んでくる彼との戦いは、チヒロにとって次第に楽しみになっていった。
週一回くらいのペースで彼と会っているものだから、もはや旧知の友人のような気すらしていた。
そんなチヒロの気持ちにイジューインは気づいていた。だからこそ、そんな事を彼に申し出たのだった。
二人が、それぞれに彼の答えに困惑した様子で立ち尽くす中で、彼はゆっくりと口を開いた。
「勝負を挑んだのは俺の方。力不足で斬られたのは俺の責任。だから、別に文句をつける筋合いはないだろ。むしろただで治してもらって感謝してるくらいだぜ」
にっと笑って屈託なく言った彼を、チヒロはまじまじと見つめた。
それから、にっこりと満面の笑顔で笑い返した。
傍らでそれを見ていたイジューインはそんな二人の様子に微笑み、それからにこやかな笑顔で二人に何かを差し出した。
「はい」
「……イジューイン、何、これ?」
二人に差し出された『それ』は、木刀だった。
……一体今まで何処に持っていたのだろうか……
「これからの勝負は、これですること」
「えー!!」
木刀を差し出しながらにこやかに告げたイジューインに、チヒロは思いきり不満な声をあげた。
「つまんないよ、そんなの!」
「……いい、チヒロ。今日はたまたま僕が通りかかったからいいようなものの、そうじゃなかったらどうしてたの? いくら僕でも死人は生きかえらせられないんだからね」
「でも……」
「チヒロ。僕はそんな聞き分けのない弟を持った覚えはないよ」
「へ? 弟……?」
不意のその言葉を、きょとんとした様子で目の前の彼は聞き返してきた。
「うん、そう。俺の兄貴のイジューイン」
何の躊躇いも戸惑いもなくこっくりと頷いて答えたチヒロに対し、彼は木刀を手にした状態でチヒロとイジューインを交互に見やる。
そして、その後で少し眉をしかめながら告げた。
「……似てない兄弟だな」
「へ?」
「髪の色といい、目の色といい、性格といい、どれ一つ取っても似てないよな。お前、橋の下ででも拾われたんじゃないのか?」
「何だと!」