続・三匹が行く
センリの真意を汲み取らず、自信を持って言い返したチヒロをイジューインが優しく諭した。
「いい、チヒロ。チヒロには分かっても、僕達には分からないんだよ」
「あ……」
その言葉で納得し、チヒロはセンリの手からリボンを受け取った。
このまるまるころころとした体の何処につけようかと少し悩んだ後、細い尻尾に結んでやる。
何をされているのかよくわからない様子で、しかしチーはおとなしくされるままになっていた。
「ちー?」
「プレゼントだよ、チー」
首を傾げるチーに、イジューインがいつもの笑顔で答える。リボンを結び終えたチヒロもそれに頷く。
「ちー♪」
ありがとう、と言ったのだと三人には感じられた。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「なあ、イジューイン。さっきの魔方陣なんだけどさー」
「ん、何?」
和やかに話しながらイジューインとセンリはすたすたと歩き出したが、チヒロだけはその場に留まっていた。
「ちー……」
お別れの意味が分かっているのだろう、淋しげな様子のチーの前にチヒロはしゃがみこむ。
「元気でな、チー」
「ちー」
「もう捕まって売られたりするんじゃないぞ」
最後にぽんぽん、と優しくチーの頭を叩いてやってからチヒロは立ちあがった。
足元にいるチーの姿を見ないようにして歩き出す。
見てしまえば別れが辛くなる事が分かっているから。
「もういいのか?」
少し行った所でセンリ達は待っていてくれた。
「……うん」
「何だ、泣いてんのかよチヒロ。全くガキだよなー」
からかわれてむっとした様子でセンリを見たチヒロは、しかし何も言い返しはしなかった。少しだけだけどセンリの瞳も濡れているのが分かったから。
「きっとまた会えるよ」
そう告げるイジューインの口調はとても穏やかで、チヒロやセンリに安心感を与えてくれた。
「そうだよな」
「うん」
笑顔を見せた二人ににっこりと笑い、それからイジューインはおもむろにばさっと紙を広げた。
それは三人が普段愛用している地図だった。
「でね、僕達は今ここにいるんだけど、これからどうしようか?」
「……イジューイン、ここって……」
「え、俺達こんな所にいるの!?」
センリは呆然と呟き、チヒロは驚いた声をあげる。
イジューインがにっこり笑いながら指し示した現在地は、大陸の果て、およそ周りに町など無いような辺境の地だった。