続・三匹が行く
自分たちが本気で戦えば負けるような相手ではない。絶対に。
なのに何故センリが先ほどからちょっと辛いと言っているのかというと『殺さないように』手加減して戦うのが辛いと言ったのである。
向こうから襲ってきたから正当防衛とは言え、殺してしまえば圧倒的にこちらが不利になる。しかし相手は数にものを言わせているだけに手加減していたら不意をつかれかねない。
チヒロもその辺はよく分かっていたので、さてどうしたものかと考える。
そんなチヒロに、センリがどこか呆れた様子で話しかけてきた。
「なあ、チヒロ。俺、さっきからずーっと思ってたんだけどさ……イジューインは一体何やってんだ?」
言われて初めてチヒロは後ろを振り返った。
そこでは、少し開けた空間にイジューインが杖を使ってがーりがりと地面に何かの図を描いていた。
「出来たー♪」
ちょうど完成したようで、嬉しそうなイジューインの声が上がった。
「出来たって……何が?」
センリの問い掛けに対して、イジューインは手招きをして二人を自分の側に呼び寄せる。
地面に描かれた図は、丸い円に幾何学な模様と文字。そのお決まりの姿に、センリがハッと気づく。
「魔方陣!?」
「そう! お師匠様の得意技、移動の魔方陣だよ♪」
にこやかにそう答えたイジューインが、とんっと杖で地面を叩くと、描かれた線が白光を放ち始める。
「見よう見真似だから何処に飛ぶか判らないけどね」
「ちょっと、待……」
笑いながら言ったイジューインの声に続き、慌てた様子のセンリの声が聞こえたが、それは最後まで紡がれる事なく掻き消された……
「ちー……」
「ん……?」
聞きなれた鳴き声を耳にして、チヒロは目を覚ました。
地面に横たわっている感覚と、頬に当たる若草の感触。
ゆっくりとチヒロは目を開けた。
「……チー?」
最初に目に入ったのは、丸いピンクの物体……チーの姿だった。
「ちー」
「ちー!」
「ちーっ」
「……え?」
目の前にいるチーとは別の方向から同じような鳴き声が聞こえてくる。そしてその声に続く、これまた聞きなれた仲間の声……と、悲鳴。
「すっごーい、僕ってやっぱり天才!」
「ぎゃー! 何だよ、これ!?」
「……イジューイン、センリ……」
むくりと身を起こしてチヒロは声の方向を見る。